膝の専門外来

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膝関節の特性と専門的ケアの重要性

膝関節の特性と専門的ケアの重要性

膝関節は体重を支え、歩行やスポーツに不可欠な関節ですが、負荷がかかりやすく、痛みやケガが生じやすい部位です。「階段の上り下りが辛い」「膝が腫れて水がたまる」「スポーツ中に膝が抜ける感じがする」など、膝の悩みは多岐にわたります。
八尾市のアスレティックス整形外科 肩膝スポーツクリニックでは、膝関節外科と関節鏡視下手術を専門とする院長が、豊富な臨床経験と精密な診断能力に基づき、個々の患者に最適な治療方針を立案・実行します。

膝関節疾患に対する診断アプローチ

当院では、効果的な治療の基盤として正確な診断を最重要視しています。
診断プロセスは、患者の症状、既往歴、生活状況などを把握し、続いて、膝関節の可動域測定、筋力評価、各種誘発テストなどを含む体系的な身体診察を行います。
これらの臨床評価に加え、最新の画像診断技術を積極的に活用します。
診断ツールは、画一的に適用されるのではなく、患者の症状や臨床所見に基づいて選択します。

レントゲン(X線)検査

膝関節疾患の基本的な評価に使用します。
骨の形状、骨折の有無、関節の隙間(関節軟骨の厚さ)、骨棘(骨のトゲ)の形成などを評価します。変形性膝関節症の進行度評価や骨折の診断に有用です。

高精細超音波(エコー)検査

当院が特に注力している診断モダリティです。
この検査によって、レントゲンでは描出困難な関節やその周辺の腱、一部の靭帯損傷、滑液包、関節液の貯留などをリアルタイムに観察できます。また、患者さまへの負担が少ない検査です。
その他にも関節穿刺や注射療法を正確に行うためのガイドとしても活用し(「超音波ガイド下」)、迅速かつ正確な診断(「迅速かつ正確な診断」)に貢献します。
この高精細超音波の積極的な活用は、より正確な病態把握と、それに続く治療選択(例えば、保存療法か手術か、あるいは特定の注射療法の選択)の精度向上につながります。

MRI検査

エコー検査より詳細な軟部組織の評価が必要な場合に撮影します(提携病院)。
靭帯、半月板、関節軟骨、筋肉、腱などの軟部組織の状態を詳細に描出できます。
靭帯断裂や半月板損傷、関節軟骨損傷などの診断に極めて有効です。

CT検査

骨折の詳しい形態や、骨の微細な変化を評価するのに適しています。

主な膝関節疾患とその治療戦略

当院では、以下のような様々な膝関節疾患に対して、診断に基づいた段階的かつ個別化された治療を提供しています。

変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis: OA)

膝のクッションである関節軟骨がすり減り、骨が変形することで痛みや腫れが生じる、中高年以降に最も多い膝の疾患です。

原因・疫学

主な原因は加齢による関節軟骨の老化ですが、肥満、過去の膝のケガ(半月板損傷、靭帯損傷、骨折など)、遺伝的要因、O脚(内反膝)やX脚(外反膝)などのアライメント異常も関与します。特に日本ではO脚(内反膝)に伴う内側の変形性膝関節症が多く、女性に多い傾向があります。

症状

初期には、立ち上がりや歩き始めの痛み、膝のこわばりなどが現れます。進行すると、階段昇降(特に下り)や正座が困難になり、膝に水がたまる(関節水腫)、安静時や夜間にも痛むようになります。さらに進行すると、O脚やX脚変形が目立ち、膝が完全に伸びない・曲がらないなどの可動域制限が生じ、歩行が困難になります。

診断

問診(症状の経過、日常生活への支障など)、診察(膝の腫れ、圧痛、可動域、O脚・X脚の程度、不安定性の有無など)を行います。レントゲン検査(立位)で関節の隙間の狭さ、骨棘(骨のとげ)の形成、骨の変形、O脚・X脚の程度などを評価し、重症度を判断します。

治療
保存療法

症状の軽減と進行予防を目的として、様々なアプローチを組み合わせて行います。
基本となるのは、生活指導です。膝への負担を軽減するため、適切な体重管理、正座などの膝に負担のかかる動作を避ける、必要に応じた杖の使用などを指導します。
薬物療法としては、痛みや炎症を抑えるための消炎鎮痛薬(内服薬や外用薬、湿布など)を処方します。また、注射療法も有効な選択肢の一つであり、関節の潤滑や軟骨保護を目的としたヒアルロン酸の関節内注射や、炎症が強い場合にそれを抑えるためのステロイド関節内注射を行います。
さらに、リハビリテーションは保存療法の中心的な役割を担います。大腿四頭筋(太もも前)を中心とした筋力強化訓練や、関節の柔軟性を保つためのストレッチ、可動域訓練などを、当院の広大なリハビリテーション室にて理学療法士が専門的に指導します。加えて、膝の安定性を高めたり、負担を軽減したりするための装具療法(サポーターや足底板など)を適宜行います。
これらの治療で改善が乏しい場合には、ご自身の血液を利用した再生医療であるPRP療法が選択肢となります(自費診療)。

手術療法は

保存療法で十分な効果が得られず、日常生活に大きな支障がある場合に検討されます。手術は、骨切り術(大腿骨遠位骨切り術「Distal Femoral Osteotomy:DFO」、高位脛骨骨切り術「High Tibia Osteotomy:HTO」)と人工膝関節置換術(Total Knee Arh6roplasty:TKA、Uni Knee Arh6roplasty:UKA)の大きく2つに分かれます。
高位脛骨骨切り術(High Tibia Osteotomy:HTO):手術適応は、比較的若年(おおよそ60歳代まで)で活動性が高く、O脚変形があり、関節の内側のみが主に傷んでいる方です。手術方法は、脛骨の一部を切り、骨の角度を変えてプレートなどで固定し、O脚を矯正して膝の内側にかかる負担を軽減します。手術中に膝関節鏡を併用し、関節内の軟骨や半月板の状態を確認し、必要に応じて同時に処置を行います。ご自身の関節を温存できる手術です。治療成績・予後は、良好な除痛効果と機能改善が期待でき、スポーツ活動への復帰が可能です。
術後リハビリテーション:術後翌日から離床を開始します。術後1週間は添え木で固定(シーネ固定)し、局所安静を図ります。術後1週間から可動域訓練とともに部分荷重を開始します。術後3週間で全荷重とし、歩行が自立すれば退院です。スポーツ復帰は、骨切り部の癒合が認められる術後3~6ヶ月が目安です。

大腿骨遠位骨切り術(Distal Femoral Osteotomy:DFO):手術適応は、比較的若年(おおよそ60歳代まで)で活動性が高く、X脚変形があり、関節の外側のみが主に傷んでいる方です。手術方法は、大腿骨の一部を切り、骨の角度を変えてプレートなどで固定し、X脚を矯正して膝の外側にかかる負担を軽減します。手術中に膝関節鏡を併用し、関節内の軟骨や半月板の状態を確認し、必要に応じて同時に処置を行います。ご自身の関節を温存できる手術です。治療成績・予後は、良好な除痛効果と機能改善が期待でき、スポーツ活動への復帰が可能です。
術後リハビリテーション:術後翌日から離床を開始します。術後1週間は添え木で固定(シーネ固定)し、局所安静を図ります。術後1週間から可動域訓練を開始し、部分荷重はおおよそ術後3週間から開始します。術後6-10週間で全荷重とし、歩行が自立すれば退院です。スポーツ復帰は、骨切り部の癒合が認められる術後6~12ヶ月が目安です。

人工膝関節置換術(Total Knee Arh6roplasty:TKA/Uni Knee Arh6roplasty:UKA):手術適応は、変形や痛みが強く、他の治療法では改善が見込めない高齢者です。関節全体が傷んでいる場合は全置換術(TKA)、主に片側(内側または外側)のみが傷んでいる場合は部分置換術(UKA)が適応となります。手術が必要な方は連携病院をご紹介します。手術方法:は、傷んだ関節表面を金属やポリエチレン製の人工関節に置き換えます。部分置換術(UKA)はより小さな切開で、自分の靭帯を温存できる利点があります。治療成績・予後は、優れた除痛効果が得られ、日常生活が大きく改善します。部分置換術(UKA)の耐用年数は一般的に15~20年程度、全置換術(TKA)は90%の方が30年以上経過後も問題なく経過しています。個人差は大きいです。
術後リハビリテーション:手術翌日頃からリハビリを開始し、歩行訓練などを進めます。通常、術後2~3週間程度で退院となります。

変形性膝関節症は進行性の疾患ですが、早期からの適切な治療(特にリハビリテーション)と生活習慣の改善により、痛みをコントロールし、進行を遅らせることが可能です。手術が必要な場合も、高位脛骨骨切り術や人工関節といった有効な方法があります。
当院では、患者様の年齢、活動性、重症度に合わせて最適な治療法をご提案します。

大腿骨内側顆骨壊死(軟骨下脆弱性骨折 - Subchondral Insufficiency Fracture of the Knee: SIFK)

以前は特発性大腿骨内側顆骨壊死(SONK)と呼ばれていた病態の多くを含む概念で、主に60歳以上の高齢者、特に女性に好発します。

原因・疫学

明らかな外傷歴がないにも関わらず、大腿骨内側顆の軟骨下骨に、骨粗鬆症などを背景とした骨の脆弱性が原因で微細な骨折(脆弱性骨折)が生じる状態と考えられています。また、半月板(特に内側半月板後根断裂)の損傷が引き金となり、局所への応力集中が関与することが指摘されています。
ステロイド使用やアルコール多飲が原因となる、より若年者に多い「特発性大腿骨頭壊死症」とは異なり、多くの場合、基礎疾患としての骨脆弱性が関連しています。

症状

変形性膝関節症が通常、徐々に発症・進行するのに対し、この病態の最も特徴的な症状は、突然発症する激しい膝の痛みです。
特に膝の内側に強い痛みを感じ、夜間痛や安静時痛を伴うことも多く、荷重によって痛みが著しく増悪します。急激に関節破壊が進行するリスクがあります。

診断

突然発症の強い膝痛という病歴が非常に重要です。診察では、大腿骨内側顆に著明な圧痛を認めます。発症初期のレントゲンでは異常がないか、ごくわずかな変化(軽い平坦化など)しか認めないことが多いですが、時間の経過とともに急速に関節面の陥没や変形性関節症様の変化が進行することがあります。
MRI検査が早期診断には不可欠であり、特徴的な所見として、大腿骨内側顆の広範な骨髄浮腫(骨内の炎症・腫れ)と、軟骨直下の線状の低信号域(骨折線)が認められます。MRI検査は、通常の変形性膝関節症や、真の(血管性の)骨壊死、その他の膝痛の原因との鑑別に極めて有用です。

治療

治療方針は、発症からの期間、病変の大きさや進行度(陥没の有無)、患者さんの年齢や活動性によって決定されます。

保存療法

発症早期で、病変が小さく、関節面の陥没がない場合に選択します。免荷(松葉杖使用)、鎮痛薬、および膝装具や足底板の使用が基本となります。骨折部の癒合を促し、関節面の陥没を防ぐことが目的です。数ヶ月間の慎重な経過観察が必要です。

手術療法(自家骨軟骨柱移植術(OATS: Osteochondral Autograft Transfer System / モザイクプラスティ)、高位脛骨骨切り術「HTO」、人工膝関節置換術「Total Knee Arh6roplasty:TKA/Uni Knee Arh6roplasty:UKA」)

保存療法が無効な場合、病変が大きい場合、すでに関節面の陥没・破壊が進行している場合に検討します。関節面の陥没・破壊した部位へ自家骨軟骨柱移植術を行いますが、内反膝の場合は高位脛骨骨切り術を併用します。
また、特に進行した症例や高齢者では、人工関節置換術を選択する場合があります。
高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術の詳細は、変形性膝関節症の項目を参照してください。

自家骨軟骨柱移植術(OATS: Osteochondral Autograft Transfer System / モザイクプラスティ)

膝関節内の比較的荷重のかからない部分(大腿骨滑車や顆間部など)から、骨と軟骨を一体として円柱状に採取し、関節面の陥没・破壊した部位に移植する方法です。硝子軟骨による修復が可能で、適応は中程度の大きさ(1-4cm²程度)です。採取できる骨軟骨柱の量には限りがあります。
術後リハビリテーション:術後翌日から離床を開始します。術後1週間は添え木で固定(シーネ固定)し、局所安静を図ります。術後1週間から可動域訓練を開始します。術後3週間で部分荷重を開始し、術後5週間で全荷重となります。術後3か月から徐々にジョギング、術後4か月からランニング、術後5か月からダッシュ、ジャンプ、術後6か月以降にスポーツ復帰となります。スポーツ復帰の時期は、下肢筋力などの改善を確認してからとなります。

大腿骨内側顆骨壊死(軟骨下脆弱性骨折)は、多くの場合、骨脆弱性を背景として突然発症する急性期の強い痛みを特徴とし、急速に関節破壊に至る可能性がある病態です。最終的には変形性膝関節症が進行し、人工関節置換術が必要となることがあります。特に高齢者で急に強い膝の痛みが出現した場合には、軟骨下脆弱性骨折の可能性を念頭に置き、早期のMRI検査を含む適切な診断を行い、病態に応じた治療方針を決定することが極めて重要です。

膝半月板断裂(内側半月板後根断裂、円板状半月板を含む)

膝のクッション(半月板)が損傷した状態です。内側半月板後根(後ろの付け根)での断裂は、半月板の機能が完全に失われ、急速に関節症が進行するリスクがあるため注意が必要です。
また、外側半月板では、生まれつき半月板が大きい(円板状半月板)方がおられます。その場合、損傷・断裂しやすい傾向にあります。

原因・疫学

スポーツ中のひねり動作やジャンプ着地などの外傷、加齢に伴う変性によって起こります。

内側半月板後根断裂は、中高年女性が階段昇降やしゃがみ込みなどの軽い動作で「ブチッ」「バキッ」という音と共に発症することが少なくありません。
円板状半月板は、軽微な外傷や明らかな原因なく損傷することがあります。円板状半月板は日本人を含むアジア人に比較的多いです。

症状

膝の痛み(特にひねり動作時や階段昇降時)、引っかかり感、膝を完全に伸ばせない・曲げられないロッキング症状、関節水腫(膝に水がたまる)。
内側半月板後根断裂では、受傷直後に膝裏に激痛が走り、その後痛みが軽減しても、歩行時の痛みが持続することがあります。

診断

問診(受傷機転、症状)、診察(圧痛部位の確認、マクマレーテストなどの誘発テスト)を行います。
レントゲン検査で円板状半月板を示唆する所見(外側関節裂隙の開大など)が見られることがあります。
MRI検査が最も有用で、断裂の部位、形態(縦断裂、横断裂、水平断裂、後根断裂など)を詳細に評価できます。超音波(エコー)検査も補助的に有用です。

治療
保存療法

症状が軽度な場合、断裂形態が安定している場合、変性断裂の場合など。安静、薬物療法、注射療法(ヒアルロン酸、ステロイド)、リハビリテーションを行います。

手術療法(関節鏡視下手術)

手術適応は、ロッキング症状の出現、保存療法で改善しなかった場合に検討します。また、内側半月板後根断裂では、半月板機能の温存のため早期の手術が望ましいです。手術療法は、関節鏡視下半月板縫合術と関節鏡視下半月板切除術の2つです。

関節鏡視下半月板縫合術: 断裂部を縫い合わせ、半月板の機能を温存する手術です。辺縁部の縦断裂など、治癒が期待できる場合に選択します。内側半月板後根断裂は縫合術(Pull-out法)の適応となります。
術後リハビリテーション:術後翌日から離床を開始します。術後1週間は添え木で固定(シーネ固定)し、局所安静を図ります。術後1週間から少しずつ可動域訓練を開始します。術後2-4週間から部分荷重を開始し、少しずつ荷重を増やします。荷重のプロトコールは、縫合方法や断裂部位、断裂形態、断裂サイズ、体重、O脚の程度などから個別に決定します。スポーツ復帰は術後6ヶ月以降が目安です。

半月板切除術:損傷した半月板を切除する手術です。縫合による治癒が期待できない断裂部位や断裂形態、変性断裂の場合に選択します。症状は比較的早く改善しますが、半月板のクッション機能は低下します。
術後リハビリテーション:手術翌日から全荷重で歩行を開始します。スポーツ復帰は術後1か月です。

半月板損傷・断裂、特に後根断裂は放置すると変形性膝関節症を急速に進行させる可能性があります。正確な診断と、断裂部位・形態に応じた適切な治療が重要です。当院では関節鏡視下での低侵襲な手術と術後リハビリで機能回復を目指します。

膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL)損傷・断裂

膝の安定性に重要な役割を果たす前十字靭帯(ACL)が、スポーツ活動中などに切れてしまうケガです。
半月板損傷・断裂、内側側副靭帯(Medial Collateral Ligament:MCL)損傷、関節軟骨損傷を合併することがあります。

原因・疫学

バスケットボール、サッカー、スキー、バレーボールなど、ジャンプからの着地、急な方向転換、ストップ動作などの非接触性で損傷することが多いです。
接触プレー(タックルなど)でも起こります。
10代~20代のスポーツ選手に好発します。

症状

受傷時に「ブチッ」「ゴキッ」といった断裂音や、膝が抜けた・ずれた感覚を自覚することがあります。
受傷直後は激しい痛みと腫れ(関節内血腫)で歩行困難となることが多いです。その後、痛みや腫れが軽減しても、歩行時や運動時の不安定感(膝崩れ)が残ることが特徴です。
放置すると半月板損傷・断裂や関節軟骨損傷を合併し、将来的な変形性膝関節症のリスクが高まります。

診断

受傷機転の聴取、診察(前方引き出しテスト、ラックマンテスト、ピボットシフトテストなどの不安定性テスト)、MRI検査で確定診断が可能です。関節穿刺で関節内血腫を確認することも診断に有用です。

治療
保存療法

高齢者、スポーツ活動を行わない方、部分損傷の場合などに選択します。装具療法やリハビリテーション(筋力強化)を行い、不安定性の改善や再受傷リスクの低下を目指します。

手術療法(関節鏡視下前十字靭帯再建術)

手術適応は、スポーツ活動への復帰を希望する場合、日常生活で不安定感(膝崩れ)がある場合です。年齢に関わらず、活動性の高い方には推奨されます。半月板損傷・断裂を合併している場合は、同時に治療します。
手術は受傷後4週間以降に行います。また、受傷後6か月以上経過して手術を行うと治療成績が低下するとの報告があります。
手術方法は、関節鏡を用いて、患者様自身の腱(膝屈筋腱(ハムストリングス腱)、膝蓋腱(骨付き)、大腿四頭筋腱など)を採取し、トンネルを骨に開けて、切れた前十字靭帯の代わりに移植して再建します。
術後リハビリテーション:術後翌日から離床を開始します。術後1週間は添え木で固定(シーネ固定)し、局所安静を図ります。術後1週間から装具装着に変更し、少しずつ可動域訓練と部分荷重を開始します。術後3週間で全荷重を開始します。術後3か月からジョギング、術後4か月からランニング、術後5か月からダッシュ、ジャンプ、術後6か月以降にスポーツ復帰となります。スポーツ復帰の時期は、下肢筋力などの改善を確認してからとなります。
再断裂や反対側の損傷のリスク予防のためには、適切なリハビリ・トレーニングを継続することが非常に重要です。

前十字靭帯損傷・断裂は、スポーツ選手にとって大きなケガですが、適切な再建手術とリハビリテーションにより、高レベルでの競技復帰も可能です。放置すると二次的な損傷(半月板損傷、関節軟骨損傷)を引き起こし、将来的な変形性膝関節症のリスクを高めるため、早期に専門医の診断を受け、治療方針を決定することが重要です。

膝後十字靭帯(Posterior Cruciate Ligament:PCL)損傷・断裂

膝の後方の安定性に関わる後十字靭帯(PCL)の損傷・断裂です。前十字靭帯損傷に比べ頻度は低いですが、見逃されやすい側面があります。
半月板損傷・断裂、後外側支持機構損傷(Postelolateral Corner:PLC)、関節軟骨損傷を合併することがあります。

原因・疫学

交通事故(ダッシュボード損傷:膝を曲げた状態で脛骨上端を前方に打つ)、スポーツ中の転倒(膝をつく、膝の過伸展)、ラグビーや柔道などでの直接的な打撃などが原因となります。

症状

前十字靭帯損傷・断裂ほどの激しい痛みや腫れは少ないことがありますが、膝後方の痛み、腫れ、不安定感(特に階段を下りる時や坂道)、膝を深く曲げた時の痛みなどがみられます。
放置すると、膝蓋大腿関節(お皿と大腿骨の間)や内側コンパートメントに変形性関節症が進行するリスクがあります。

診断

受傷機転の聴取、診察(後方引き出しテスト、サギングサインなどの不安定性テスト)、MRI検査で確定診断が可能です。関節穿刺で関節内血腫を確認することも診断に有用です。

治療
保存療法

後十字靭帯単独損傷で、不安定性が軽度~中等度の場合は、保存療法が第一選択となります。シーネ固定やギプス固定の局所安静後、装具療法(PCL専用装具)で脛骨の後方への落ち込みを防ぎます。靭帯の自然治癒が期待できる場合があります。その後、リハビリテーションで大腿四頭筋強化や可動域訓練などを行います。

手術療法(関節鏡視下後十字靭帯再建術)

手術適応は、スポーツ活動への復帰を希望する場合、保存療法で不安定性が改善しない場合、他の靭帯損傷(後外側支持機構など)を合併している場合です。
手術方法は、前十字靭帯再建術と同様に、自家腱(膝屈筋腱または大腿四頭筋腱)を用いて、関節鏡視下に再建します。
術後リハビリテーション:術後翌日から離床を開始します。術後2週間は添え木で固定(シーネ固定)し、局所安静を図ります。術後2週間から装具装着に変更し、少しずつ可動域訓練を開始します。部分荷重は術後3週間から開始し、術後5週間で全荷重となります。術後4か月からジョギング、術後5か月からランニング、術後6か月からダッシュ、ジャンプ、術後8か月以降にスポーツ復帰となります。スポーツ復帰の時期は、下肢筋力などの改善を確認してからとなります。

後十字靭帯損傷は、単独損傷であれば保存療法で良好な結果が得られることが多いですが、不安定性が残存する場合や他の靭帯損傷を合併する場合は、将来的な関節症進行のリスクから、手術療法が検討されます。正確な診断と適切な治療方針の選択が重要です。

膝内側側副靭帯(Medial Collateral Ligament:MCL)損傷・断裂

膝の内側の安定性を保つ内側側副靭帯(MCL)の損傷です。膝の靭帯損傷の中で最も頻度が高いと言われています。
半月板損傷・断裂、前十字靭帯損傷・断裂、関節軟骨損傷などと合併することがあります。

原因・疫学

膝の外側から内側への力(外反力)が加わることで損傷します。
ラグビーやサッカーでのタックル、スキーでの転倒などが典型的な原因です。

症状

膝の内側の痛み、圧痛、腫れ。損傷部位を押すと強い痛みがあります。重度の場合は、膝の内側が開くような不安定感を感じます。

診断

受傷機転の聴取、診察(圧痛点の確認、外反ストレステストによる不安定性の評価)を行い、超音波(エコー)検査やMRI検査で損傷部位や程度を評価します。
また、レントゲン検査で剥離骨折の有無を確認します。

治療
保存療法

内側側副靭帯単独損傷の多くは保存療法で治癒が期待できます。損傷の程度はI- III度に分類されます。
損傷・断裂部位が大腿骨側の場合は主に保存療法となりますが、脛骨側の場合は手術療法となります。
I度(軽症:靭帯の微細損傷)では、 治療はRICE処置、サポーター固定、早期からのリハビリテーションです。数週間でスポーツ復帰可能です。
II度(中等症:靭帯の部分断裂)では、治療はRICE処置、ヒンジ付き膝装具による固定(3~6週間程度)、段階的なリハビリテーションです。スポーツ復帰には1~3ヶ月程度かかります。
III度(重症:靭帯の完全断裂)では、治療はRICE処置、ヒンジ付き膝装具による長期固定(6週間以上)とリハビリテーションです。安静の遵守が非常に重要となります。
活動性が高い場合は手術療法の方が適切です。

手術療法(靭帯修復術)

手術適応は、III度損傷で、膝の動揺性が非常に大きい場合、他の靭帯損傷(前十字靭帯など)や半月板損傷を合併している場合、保存療法で不安定性が残存した場合です。
手術方法は、損傷した靭帯をアンカー(糸付きスクリュー)で縫合する修復術です。陳旧例では、腱を用いて再建する手術を行います。
術後リハビリテーション:術後翌日から離床を開始します。術後1週間は添え木で固定(シーネ固定)しますが、全荷重は可能です。術後1週間から装具装着に変更し、可動域訓練を開始します。その後、段階的にリハビリテーションを進め、スポーツ復帰には術後3か月以降です。合併損傷がある場合は、それに準じてリハビリテーションを行います。

内側側副靭帯損傷は、多くの場合保存療法で良好に治癒しますが、重症度や合併損傷の有無を正確に診断し、適切な固定期間とリハビリテーションを行うことが重要です。不安定性が残存した場合は他の損傷を引き起こすリスクがあります。

膝後外側支持機構(Posterolateral Corner:PLC)損傷・断裂

膝の後外側の安定性に関わる複数の靭帯や腱などの複合体(外側側副靭帯「Lateral Collateral Ligament:LCL」、膝窩腓骨靭帯、膝窩筋腱など)の損傷・断裂です。
単独損傷はまれで、後十字靭帯損傷・断裂や前十字靭帯損傷・断裂と合併することが多いです。

原因・疫学

膝の内側からの外力(内反力)、膝の過伸展、下腿の外旋などが原因となります。
交通事故やスポーツ外傷(特にコンタクトスポーツ)で生じます。

症状

膝の外側~後外側の痛み、腫れ、不安定感(特に膝伸展位での外側の不安定性、回旋不安定性)、歩行時の不安定感(Varus thrustなど)など。
腓骨神経麻痺(足首や足指が上がらない、すねの外側のしびれ)を伴うことがあります。

診断

受傷機転の聴取、診察(圧痛点の確認、内反ストレステスト・Dial test・外旋後方引き出しテストによる不安定性の評価)を行い、超音波(エコー)検査やMRI検査で損傷部位や程度を評価します。
また、レントゲン検査で剥離骨折の有無を確認します。

治療
保存療法

軽微な損傷(Grade I-II)で、不安定性が軽度な場合に試みられることもありますが、後外側支持機構損傷・断裂は治癒しにくいため、手術療法が選択されることが多いです。損傷の程度はI- III度に分類されます。

手術療法(靭帯修復術):

手術適応は、明らかな不安定性を示す後外側支持機構損傷・断裂(Grade III)、他の靭帯損傷・断裂(前十字靭帯/後十字靭帯)との合併損傷などです。早期(受傷後3週間以内)の修復が必要で、陳旧例は再建術が必要となります。
手術方法は、損傷した靭帯をアンカー(糸付きスクリュー)で縫合する修復術です。陳旧例では、腱を用いて再建する手術を行います。
術後リハビリテーション:術後翌日から離床を開始しますが、前十字靭帯、後十字靭帯など複数の靭帯損傷・断裂を合併することが多いため、不安定性が強く、非常に慎重なリハビリテーションが必要となります。長期の免荷や装具固定、段階的な可動域・筋力訓練が必要で、個々の膝の状態に応じたリハビリプログラムを作成します。スポーツ復帰には1年以上の期間を要することが多いです。

後外側支持機構損傷・断裂は膝の安定性に重大な影響を与え、見逃されると治療成績が悪化します。多くの場合、前十字靭帯、後十字靭帯など複数の靭帯損傷・断裂を合併することが多いため、常に念頭に置いた診断が必要です。治療は手術が必要となることが多く、専門的な知識と技術、そして長期的なリハビリテーションが不可欠です。

膝複合靭帯損傷・断裂

膝の複数の主要な靭帯(例:前十字靭帯+後十字靭帯、前十字靭帯+後外側支持機構、後十字靭帯+後外側支持機構など)が同時に損傷・断裂した状態です。多くは交通事故や重度のスポーツ外傷など、高エネルギー外傷によって生じます。

原因・疫学

大きな外力(交通事故、転落、コンタクトスポーツでの重度の接触など)により発生します。膝関節脱臼を伴うこともあります。
多くの場合、立つことや膝を曲げることができず、救急搬送となります。

症状

受傷時の激しい痛み、著しい腫れ、皮下出血、明らかな不安定感、歩行不能です。
関節脱臼を伴う場合は、明らかな膝の変形が見られます。
神経・血管損傷を合併するリスクが高いです。

診断

受傷機転の聴取、診察(著しい腫脹、不安定性の評価、神経・血管の状態確認)を行い、レントゲン検査やMRI検査が必須です。骨折や脱臼、神経・血管損傷を合併する可能性が高く、造影CT検査や血管造影を考慮する必要があります。

治療
保存療法

基本的に適応となりません。

手術療法(靭帯修復術)

ほぼ全例で手術が必要となります。関節脱臼を伴う場合は、緊急整復と血管・神経損傷の評価・治療が最優先されます。
手術方法は、損傷・断裂した複数の靭帯に対して、アンカー(糸付きスクリュー)を用いた修復術や腱を用いた再建術を行います。
一度の手術で全ての靭帯を修復・再建する場合(一期的再建)と、複数回に分けて手術を行う場合(二期的再建)があります。関節鏡視下手術と直視下手術を組み合わせて行います。
術後リハビリテーション:個々の損傷・断裂パターンや手術方法に応じて、非常に複雑かつ長期的なリハビリテーションが必要です。
目標は日常生活動作の安定した獲得となり、スポーツ復帰は難しいです。

膝複合靭帯損傷・断裂は、膝の機能に深刻な影響を与える重度の外傷です。迅速な診断と、血管・神経損傷への対応、そして専門的な知識・技術に基づいた計画的な手術治療と長期的なリハビリテーションが必要です。

習慣性(反復性)膝蓋骨脱臼

膝のお皿(膝蓋骨)が、繰り返して外側に外れてしまう(脱臼する)状態です。
前十字靭帯損傷・断裂を合併することがあります。

原因・疫学

初回の脱臼(多くはスポーツ中など)の後に、膝蓋骨を内側で支える靭帯(内側膝蓋大腿靭帯、Medial patellar Femoral Ligament:MPFL)が損傷・弛緩することや、生まれつきの骨の形態(大腿骨滑車溝の形成不全など)やアライメント異常、全身性の関節弛緩性などが素因となり、脱臼を繰り返しやすくなります。10代の女性に比較的多くみられます。

症状

脱臼を繰り返すことによる膝の痛み、腫れ、そして「また外れるのではないか」という不安感。膝崩れや、膝に力が入らない感じ(Giving way)を伴うことがあります。

診断

問診(脱臼の既往、頻度、状況)、診察(膝蓋骨の不安定性テスト:Apprehension signなど)である程度診断は可能です。レントゲン検査(膝蓋骨の位置、骨形態評価:軸写撮影など)やCT/MRI検査(MPFL損傷、軟骨損傷、骨形態の詳細評価)で詳細な評価を行います。
初回脱臼時は、関節穿刺で関節内血腫を確認することも診断に有用です。

治療
保存療法

脱臼頻度が少ない場合や、不安感が軽度な場合は、膝装具を装着し、リハビリテーションで大腿四頭筋内側広筋の筋力強化及び体幹・股関節機能改善を行います。
しゃがみ込み時に膝が内に入る(外反)動作やお姉さま座りは再脱臼のリスクがあります。

手術療法(関節鏡視下内側膝蓋大腿靭帯「MPFL」再建術)

手術適応は、脱臼を頻繁に繰り返す場合、強い不安感により日常生活やスポーツ活動に支障がある場合、保存療法で改善しない場合です。
手術は、損傷した内側膝蓋大腿靭帯を再建します。腱(膝屈筋腱)を用いて、関節鏡視下と小切開で行います。骨のアライメント異常が強い場合は、脛骨粗面移行術などの骨切り術を併用します。
術後リハビリテーション:術後翌日から離床を開始します。術後1週間は添え木で固定(シーネ固定)し、局所安静を図ります。術後1週間から装具装着に変更し、全荷重歩行を開始します。可動域訓練は段階的に行います。術後3か月からジョギング、術後4か月からランニング、術後5か月からダッシュ、ジャンプ、術後6か月以降にスポーツ復帰となります。スポーツ復帰の時期は、下肢筋力などの改善を確認してからとなります。

習慣性膝蓋骨脱臼は、痛みだけでなく強い不安感を伴い、活動を制限する原因となります。原因となっている解剖学的な問題を評価し、適切な治療法を選択することで、安定した膝機能を取り戻すことが期待できます。

外傷性膝関節軟骨損傷・離断性骨軟骨炎(Osteochondritis Dissecans:OCD)

膝関節の関節軟骨損傷は、スポーツ活動中の捻りやジャンプ着地、転倒、交通事故などによる直接的な外力(打撲)や、膝への強い捻転力が加わることで発生する「外傷性膝関節軟骨損傷」と、明らかな外傷歴がなく、繰り返される微細な外力や血流障害などが関与していると考えられている「離断性骨軟骨炎(Osteochondritis Dissecans: OCD)」に大別されます。

原因・疫学

外傷性関節軟骨損傷はあらゆる年齢層で起こり得ますが、特にスポーツ選手に多く、前十字靭帯損傷・断裂などに合併することが少なくありません。
一方、離断性骨軟骨炎は主に10代の成長期から20代の若年者に多く発症し、活動性の高いスポーツ選手によく見られます。大腿骨の内側顆の関節面に発生することが最も多いですが、外側顆や膝蓋骨に生じることがあります。離断性骨軟骨炎の原因は完全には解明されていませんが、繰り返す微小外傷、局所の血流障害、遺伝的素因などが複合的に関与していると考えられています。成長期(骨端線閉鎖前)に発症する若年型と、成人になってから発症・発見される成人型があり、予後や治療方針が異なります。

症状

外傷性関節軟骨損傷および離断性骨軟骨炎の主な症状は、膝の痛み(運動時や荷重時に増強することが多い)、腫れ(関節内血腫や水腫)、ひっかかり感、関節内でのゴリゴリという音、不安定感などです。損傷した軟骨や骨軟骨片が関節内に関節ねずみ(遊離体)として剥がれ落ちると、膝が急に動かせなくなる「ロッキング」と呼ばれる症状を引き起こすことがあります。症状は損傷の大きさ、部位、不安定性の程度によって異なり、軽微な場合は無症状であったり、違和感程度であったりすることもあります。

診断

診断は、まず詳細な問診(受傷機転の有無、症状の経過など)と身体所見(圧痛部位、腫脹の程度、可動域、不安定性の有無、離断性骨軟骨炎に特有の誘発テストなど)から行われます。
画像診断としては、レントゲン撮影が基本となり、骨軟骨片の有無や大きさ、関節裂隙(関節の隙間)の状態を確認しますが、初期の関節軟骨損傷のみでは異常を認めないことがあります。MRI検査は、関節軟骨の状態、損傷の範囲や深さ、骨挫傷(骨の内部損傷)の有無、そして離断性骨軟骨炎においては病巣の安定性(骨軟骨片が剥がれかかっているか、完全に分離しているかなど)を評価するのに非常に有用であり、診断において中心的な役割を果たします。超音波検査(エコー)でも観察可能な場合があります。
最終的な確定診断や、治療方針の決定のために、関節鏡(関節内視鏡)が行われることもあります。関節鏡では、関節内を直接観察し、関節軟骨表面の状態や離断性骨軟骨炎の病巣の安定性を詳細に評価することが可能です。

治療
保存療法

比較的小さな関節軟骨損傷や、安定性のある若年型離断性骨軟骨炎(特に症状が軽い場合や偶然発見された場合)に適応となります。具体的には、スポーツ活動の休止や制限、松葉杖による免荷・荷重制限、消炎鎮痛薬の投与、関節可動域訓練や筋力訓練などの理学療法、装具療法などが含まれます。特に成長期の離断性骨軟骨炎では、骨端線が閉鎖する前に適切な管理を行うことで、自然修復が期待できる場合があります。

手術療法

保存療法が無効な場合、症状が強い場合、大きな関節軟骨欠損、不安定な離断性骨軟骨炎の病巣、関節遊離体が存在する場合などに選択します。手術方法には様々なものがありますが、代表的なものに以下の方法があります。

骨髄刺激法(マイクロフラクチャー、ドリリングなど)

不安定な関節軟骨片を切除し、欠損した部分の骨(軟骨下骨)に小さな穴を開ける方法です。小さな穴を開けることで、骨髄からの幹細胞を含む血液成分の流入を促し、線維軟骨と呼ばれる修復組織での被覆を期待します。
適応は、比較的小さな欠損(2-4cm²未満)ですが、形成される線維軟骨は本来の硝子軟骨よりも耐久性に劣り、治療成績は他の治療方法と比較して劣ります。
術後リハビリテーション:術後翌日から全荷重で歩行可能で、スポーツ復帰は術後1か月以降となります。関節水腫が続く可能性があります。

自家骨軟骨柱移植術(OATS: Osteochondral Autograft Transfer System / モザイクプラスティ)

膝関節内の比較的荷重のかからない部分(大腿骨滑車や顆間部など)から、骨と軟骨を一体として円柱状に採取し、軟骨欠損部に移植する方法です。硝子軟骨による修復が可能で、適応は中程度の大きさ(1-4cm²程度)の欠損です。
採取できる骨軟骨柱の量には限りがあります。
術後リハビリテーション:術後翌日から離床を開始します。術後1週間は添え木で固定(シーネ固定)し、局所安静を図ります。術後1週間から可動域訓練を開始します。術後3週間で部分荷重を開始し、術後5週間で全荷重となります。術後3か月から徐々にジョギング、術後4か月からランニング、術後5か月からダッシュ、ジャンプ、術後6か月以降にスポーツ復帰となります。スポーツ復帰の時期は、下肢筋力などの改善を確認してからとなります。

自家培養軟骨移植術(ACI: Autologous Chondrocyte Implantation):

まず関節鏡視下に少量の自己軟骨組織を採取し、体外で細胞を培養して増やします。その後、再度手術を行い、培養した軟骨細胞を欠損部に移植します。本来の硝子軟骨に近い組織での修復が期待できますが、2回の手術が必要であること、リハビリ期間が長いことが特徴です。適応は、比較的大きな軟骨欠損(4cm²以上)です。
術後リハビリテーション:術後翌日から離床を開始します。術後1週間は添え木で固定(シーネ固定)し、局所安静を図ります。術後1週間から可動域訓練を開始します。術後4~6週間から部分荷重を開始し、術後6~8週間で全荷重となります。術後6か月からサイクリング、術後8か月からジョギング、術後10か月からランニング、術後12か月からダッシュ、ジャンプ開始となります。その後、下肢筋力が改善すれば、スポーツ復帰となります。

骨軟骨片固定術

離断性骨軟骨炎に対して、病巣が不安定でもまだ母床と連続性がある場合に骨釘や吸収性ピンなどで固定する方法です。完全に病巣が遊離している場合や、固定が困難な場合は、上記の軟骨修復術(マイクロフラクチャー、自家骨軟骨柱移植術、自家培養軟骨移植術)が適応となります。
術後リハビリテーション:術後翌日から離床を開始します。術後1週間は添え木で固定(シーネ固定)し、局所安静を図ります。術後1週間から少しずつ可動域訓練を開始します。荷重開始やスポーツ復帰の時期は、年齢、病巣部位、大きさ、固定性などを考慮して個別に判断します。

外傷性膝関節軟骨損傷と離断性骨軟骨炎は、特に若年者やスポーツ愛好家において膝の痛みや機能障害を引き起こす重要な疾患です。正確な診断(特にMRI検査)に基づき、個々の患者さんの状態(年齢、活動性、病変の特性など)に応じて、保存療法から自家骨軟骨柱移植術(OATS)や自家培養軟骨移植術(ACI)といった高度な手術療法まで、適切な治療法を選択することが肝要です。手術療法は軟骨修復を目指しますが、完全に元通りの硝子軟骨を再生することは依然として挑戦的な課題です。いずれの治療法を選択した場合でも、成功のためには長期にわたる慎重かつ計画的な術後リハビリテーションが不可欠であり、患者さん自身の治療への理解と協力が強く求められます。適切な治療とリハビリテーションにより、多くの患者さんで症状の改善と機能回復が期待できます。

膝関節疾患と治療法の概要

以下の表は、当院で対応する主な膝関節疾患と、それに対する治療アプローチの概要をまとめたものです。

疾患名 主な症状 主な保存療法 主な注射療法 主な処置 主な手術療法
変形性膝関節症(OA) 痛み(動作時・安静時)、可動域制限、O脚/X脚、水腫 リハビリ、減量、装具、消炎鎮痛薬 ヒアルロン酸、ステロイド PRP 高位脛骨骨切り術(HTO)、大腿骨遠位骨切り術(DFO)、人工膝関節置換術(TKA/UKA)
大腿骨内側顆骨壊死(軟骨下脆弱性骨折 SIFK) 突然の激痛(特に内側)、夜間痛、荷重時痛 免荷、装具、骨粗鬆症治療、消炎鎮痛薬 PRP、超音波ガイド下注射 自家骨軟骨柱移植術(OATS)、HTO(内反変形合併時)、人工膝関節置換術(UKA/TKA)
膝半月板断裂(内側半月板後根断裂、円板状半月板含む) 痛み(ひねり動作時)、引っかかり感、ロッキング、水腫 リハビリ、安静、消炎鎮痛薬 ヒアルロン酸、ステロイド PRP、超音波ガイド下注射 関節鏡視下半月板縫合術、関節鏡視下半月板切除術
膝前十字靭帯(ACL)損傷・断裂 受傷時断裂音、膝崩れ、不安定感、関節内血腫 リハビリ(筋力強化)、装具 PRP 関節鏡視下前十字靭帯再建術
膝後十字靭帯(PCL)損傷・断裂 膝後方の痛み、不安定感(階段下りなど)、腫れ リハビリ(大腿四頭筋強化)、装具 PRP 関節鏡視下後十字靭帯再建術
膝内側側副靭帯(MCL)損傷・断裂 膝内側の痛み、圧痛、腫れ、不安定感 安静、装具、リハビリ PRP 靭帯修復術(縫合術)、(陳旧例では再建術)
膝後外側支持機構(PLC)損傷・断裂 膝外側~後外側の痛み、不安定感、腓骨神経麻痺 軽微な場合のみ試行 靭帯修復術、(陳旧例では再建術)
膝複合靭帯損傷・断裂 激痛、著しい腫れ、高度不安定感、歩行不能、神経・血管損傷リスク 適応外 靭帯修復術・再建術(一期的または二期的)
習慣性(反復性)膝蓋骨脱臼 脱臼の反復、不安感、膝崩れ、痛み リハビリ(筋力強化)、装具 関節鏡視下内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)再建術、(脛骨粗面移行術など骨切り術を併用することも)
外傷性膝関節軟骨損傷・離断性骨軟骨炎(OCD) 痛み(運動時・荷重時)、腫れ、ひっかかり感、ロッキング 安静、免荷、装具、リハビリ PRP 骨髄刺激法、自家骨軟骨柱移植術(OATS)、自家培養軟骨移植術(ACI)、骨軟骨片固定術(OCD)

※表は左右にスクロールして確認することができます。

この表は概要であり、実際の治療は個々の患者の状態に応じて決定されます。

提供される主要な治療モダリティ

当院では、膝関節疾患に対して多岐にわたる治療選択肢を提供しています。

保存的治療

薬物療法

多くの疾患で初期治療や症状緩和のために消炎鎮痛薬が用いられます。

リハビリテーション

全ての膝関節疾患の治療において中心的な役割を果たします。
理学療法士によるマンツーマンのリハビリテーションで、個々の状態に合わせたオーダーメイドのプログラムを提供します。筋力強化(特に大腿四頭筋、ハムストリングス)、関節可動域改善、ストレッチ、バランストレーニング、歩行指導、スポーツ動作の改善などを目的とした訓練が行われます。

注射療法

多様な選択肢

節の潤滑や軟骨保護を目的としたヒアルロン酸注射(主に関節症)、炎症や痛みを強く抑えるためのステロイド注射(関節内、腱周囲、滑液包内など、適応と投与量・回数は慎重に判断)、癒着を剥がしたり痛みを軽減したりする目的のハイドロリリースなど、病態に応じた注射療法を選択します。

再生医療

変形性膝関節症、難治性の腱炎(膝蓋腱炎など)、靭帯損傷・断裂、半月板損傷・断裂に対して、自己治癒力を利用するPRP(多血小板血漿)療法を選択肢として提供しています(自費診療)。

ガイド下処置

超音波ガイド下での注射(関節内注射、ハイドロリリース、滑液包内注射、腱鞘内注射など)により、精度と安全性を高めています。

特殊な非手術的介入

動注治療

他の治療で改善が難しい膝周囲の慢性的な痛み(大腿四頭筋腱炎、膝蓋腱炎、鵞足炎など)に対して、動注治療が選択肢となる場合があります(自費診療)。

体外衝撃波療法(ESWT)

膝蓋腱炎(ジャンパー膝)などの慢性的な腱付着部炎に対して有効な場合があります。

手術療法

院長による執刀

希望される場合は、膝関節外科と関節鏡視下手術を専門とする院長が提携病院で手術を執刀します。(※人工膝関節置換術については、連携病院の専門医をご紹介します。)

関節鏡視下手術

半月板縫合・切除術、前・後十字靭帯再建術、内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)再建術、骨軟骨片固定術、自家骨軟骨柱移植術(OATS)、自家培養軟骨移植術、滑膜切除術、遊離体摘出術など、多くの手術を関節鏡視下手術を中心とした低侵襲手術で行います。

骨切り術・人工関節置換術

変形性膝関節症や大腿骨内側顆骨壊死(軟骨下脆弱性骨折 SIFK)などに対し、骨切り術(高位脛骨骨切り術:HTO、大腿骨遠位骨切り術:DFO)や人工膝関節置換術(TKA/UKA)が適応となる場合があります。

連携体制

手術自体は提携病院で行いますが、手術適応の判断、術前の計画、そして極めて重要な術後のリハビリテーションは一貫して当院で管理します。
この体制は、診断から治療、リハビリテーションまでを専門医が一貫して監督する「ハブ・アンド・スポーク」モデルと見なすことができ、患者さまにとっては質の高い医療へのアクセスとケアの継続性が確保される利点があります。

膝の専門外来

このように、当院は基本的な保存療法から、PRPのような再生医療、ハイドロリリース、体外衝撃波療法、動注治療といった特殊な非手術的介入、そして関節鏡視下手術から骨切り術に至るまで、非常に広範な治療選択肢を有しており、個々の患者さまの病態やニーズに応じた最適な治療戦略の立案が可能です。

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