今回は投球障害肩について記載します。
投球障害肩(野球肩)は、野球やソフトボールなどの投球動作の繰り返しによって肩関節に負担がかかり、痛みや動きに制限が生じる状態です。バレーボールのアタック動作やバトミントンのスマッシュ動作などでも生じます。
以下に、原因、症状、および治療法について詳しくまとめます。
1. 原因
投球障害肩の原因は、反復的な投球動作により肩関節や関節周囲の筋肉や腱、靭帯などに負担がかかり、骨頭の求心位が得られなくなることで生じます。以下の原因が複合して生じることがほとんどです。
・腱板損傷
骨頭の求心位が得られない状態で投球動作を繰り返すことで、周囲の組織と腱板が衝突し、炎症や損傷を引き起こします。
・SLAP損傷
投球動作の繰り返しによって肩関節後方組織に負荷が加わり硬くなり、上腕骨骨頭の求心位が得られなくなることで、後上方から前上方の関節唇に負荷が生じ、損傷します。
・インピンジメント症候群
骨頭の求心位が得られない状態で投球動作を繰り返すことで、周囲の組織と腱や靭帯が衝突するため、炎症や痛みが生じます。
・肩関節の不安定性
骨頭の求心位が得られない状態で投球動作を繰り返すことで、周囲の靭帯損傷などにより肩関節の安定性が失われ、炎症や痛みが生じます。
2. 症状
投球障害肩の主な症状は、肩関節痛、可動域制限です。
3. 治療(保存療法)
治療方法は、痛みや損傷の程度、症状の継続期間によって異なります。治療法は、保存療法と手術療法の2つに大別されます。
・安静:投球や腕を酷使する動作を制限し、肩の疲労回復を優先する。
・アイシング: 炎症が生じている場合は、アイスパックなどで冷やし、炎症を抑える。
・ストレッチ及びリハビリテーション: 肩関節、胸郭、肩甲胸郭関節、胸椎、股関節などの可動域や柔軟性を改善し、機能的な無理のない投球動作の獲得を目指します。
・筋力訓練:投球動作に必要な筋力強化を行ないます。下肢や体幹などバランスの良い投球動作に必要な筋力を強化します。
・薬物療法:痛みや炎症を和らげるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)処方、超音波検査による関節内注射やハイドロリリースを行ないます。
・投球動作の修正: 理学療法士の指導のもと、負担の少ない投球フォームを習得します。
・超音波ガイド下ハイドロリリース
負担がかかり癒着した筋膜と筋膜の間や神経周囲を超音波を見ながら注射し、剥離します。注射する成分は主に生理食塩水やブドウ糖です。
・超音波ガイド下後方関節包切離(pie crust technic
後方関節包が硬くなり、骨頭の求心位が得られない場合や内旋可動域制限が顕著である場合は、超音波を見ながら後方の関節包を注射針で切離します。所要時間は数分です。
4. 治療(手術療法)
保存療法で症状が改善しない場合、手術を検討します。割合としては5%未満です。関節鏡でSLAP損傷、腱板損傷へのクリーニング、後方関節包タイトネス(硬さ)への関節包切離、Bennett骨棘切除などを行います。転位の大きい関節唇損傷に対しては関節唇修復術を行うことがあります。