【院長ブログ】動揺肩(非外傷性)

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【院長ブログ】動揺肩(非外傷性)

2025.04.09

1. 概要

動揺肩(非外傷性)とは、明らかな外傷なく、肩関節の不安定性(動揺性)が生じる疾患です。
関節包や靭帯の弛緩、筋力の不均衡、神経制御の異常などにより生じます。

2. 原因

動揺肩(非外傷性)の主な原因は以下の通りです。

(1) 先天的要因(関節弛緩性)

生まれつき関節が緩く(全身関節弛緩性; general joint laxity)、両側性になりやすい。コラーゲンの異常(Marfan症候群やEhlers-Danlos症候群などの遺伝性疾患に関連)を伴っている場合がある。

(2) オーバーヘッドスポーツ従事者

野球、ソフトボール、バレーボール、ハンドボール、バトミントン、体操、水泳などで生じる。オーバーヘッド動作を繰り返すことで、関節包や靭帯が緩み、肩関節安定性の低下を招く。

(3) 筋力低下・協調性不全

加齢や運動不足によってインナーマッスル(肩腱板)や肩甲骨周囲筋の筋力、支持性が低下し、骨頭求心性の低下から肩関節安定性の低下を招く。

(4) 神経・感覚異常(固有感覚の低下)

肩関節の位置感覚(プロプリオセプション)の低下によって筋肉の反応が遅れ適切な関節制御ができず、肩関節不安定性が増加する。

3. 症状

肩の違和感・脱力感(「肩が抜けそう」「外れそう」な感覚)
肩の痛み(特に運動時や長時間の使用後)
亜脱臼感(軽度の脱臼を繰り返す)
スポーツ時のパフォーマンス低下(ボールを投げる際の力が入らないなど)

4. 診断

(1) 問診

症状の発生状況(外傷歴の有無、スポーツ歴)、不安定感を感じる動作や姿勢など。

(2) 理学所見

Sulcus Sign、Load and Shift Test、Apprehension Test(不安感テスト)、全身性関節弛緩性の評価などを行う。

(3) 画像検査

X線: 骨折や骨欠損の有無、骨形態の異常を確認。
MRI: 関節唇や関節包などの軟部組織の評価。造影MRI検査が有効。

5. 治療

保存療法(リハビリテーション)が主体。

(1) リハビリテーション
1. 筋力トレーニング

インナーマッスル(肩腱板)や
肩甲骨周囲筋(前鋸筋、僧帽筋、菱形筋)の強化及び体幹トレーニングによって肩の安定性を改善する。

2. 固有感覚トレーニング(プロプリオセプション)

バランスボールや不安定な状況下での肩の安定性を強化する。

3. 可動域のコントロール

必要以上に可動域を広げるストレッチを控える。
過伸展を防ぐための運動制御訓練。

4. 日常動作の改善

姿勢の改善(猫背を防ぐ)。
肩への過度な負担を避ける。

(2) サポート療法

テーピングや装具の使用: スポーツ時の肩の安定性を高める。
スポーツフォームの見直し: 投球動作などの修正。

(3) 手術療法

保存療法で改善しない場合、手術が検討される。ただ術後の再発率は高く、慎重に判断する必要がある。
関節包縫縮術(緩んだ関節包を縫縮し安定性を向上)や関節唇修復術(損傷があれば修復)。

6. 予後と予防

(1) 予後
適切なリハビリを行えば、多くの患者は改善する。
治療を継続することが重要。
過度なストレッチや無理なスポーツ活動は再発のリスク。
(2) 予防
肩関節周囲の筋力強化。
インナーマッスル(肩腱板)や
肩甲骨周囲筋(前鋸筋、僧帽筋、菱形筋)の強化及び体幹トレーニング。
過度な可動域ストレッチを控える(特に関節が緩い人)。
スポーツ時の正しいフォームを意識する

7. まとめ

非外傷性動揺肩は、明確な外傷がないのに肩関節が不安定になる状態。
関節弛緩性、オーバーユース、筋力低下、固有感覚の低下が主な原因。
診断には理学所見が重要で、リハビリが治療の中心となる。
適切な筋力トレーニングと肩の安定性向上が改善・予防の鍵となる。