スポーツの専門外来

  • HOME>
  • スポーツの専門外来

スポーツの特性と専門的ケアの重要性

スポーツの特性と専門的ケアの重要性

スポーツは、健康増進、体力向上、精神的な充足感など、私たちの人生に多くの価値をもたらします。しかし、その一方で、スポーツ活動には常にケガ(スポーツ外傷)や使いすぎによる痛み(スポーツ障害)のリスクが伴います。これらの問題は、単にプレーを中断させるだけでなく、日常生活の質(QOL)を低下させ、時には将来にわたる後遺症を残す可能性があります。
スポーツ整形外科は、このようなスポーツ活動に起因する運動器(骨、関節、筋肉、靭帯、腱、神経など)の問題を専門的に診断・治療し、安全かつ早期の競技復帰、さらには再発予防とパフォーマンス向上を目指す分野です。
当院では、日本整形外科学会認定スポーツ医および日本スポーツ協会公認スポーツドクターである院長が、自身のスポーツ経験と豊富な臨床・手術経験に基づき、あらゆるレベルのアスリートやスポーツ愛好家の皆様に、専門的かつ包括的なスポーツ医療を提供します。

スポーツによるケガ・痛みに対する診断アプローチ

当院では、効果的な治療の基盤として正確な診断を最重要視しています。
どのようなスポーツ種目に取り組み、どのレベル(レクリエーション、部活動、競技レベルなど)で活動しているのか、どのような状況で症状が出現したのか(特定のプレーや外傷の有無など)、痛みの部位や性質、強さ、どのような時に痛みが強まったり和らいだりするのか、いつから症状があるのかといった症状をお伺いします。加えて、過去のケガや病気の既往歴、現在の目標(競技復帰の希望、日常生活での支障度など)について聴取し、続いて、関節の可動域測定、筋力評価、各種誘発テストなどを含む体系的な身体診察を行います。
これらの臨床評価に加え、最新の画像診断技術を積極的に活用します。
診断ツールは、画一的に適用されるのではなく、患者の症状や臨床所見に基づいて選択します。

レントゲン(X線)検査

骨折、脱臼、骨の変形、アライメント異常、疲労骨折の一部などを評価する基本的な検査です。立位での全長撮影なども行い、下肢全体のバランスを評価します。

高精細超音波(エコー)検査

当院が特に注力している診断モダリティです。
この検査によって、レントゲンでは描出困難な関節やその周辺の腱、一部の靭帯損傷、滑液包、関節液の貯留などをリアルタイムに観察できます。また、患者さまへの負担が少ない検査です。
その他にも関節穿刺や注射療法を正確に行うためのガイドとしても活用し(「超音波ガイド下」)、迅速かつ正確な診断(「迅速かつ正確な診断」)に貢献します。
この高精細超音波の積極的な活用は、より正確な病態把握と、それに続く治療選択(例えば、保存療法か手術か、あるいは特定の注射療法の選択)の精度向上につながります。

MRI検査

靭帯、半月板、関節軟骨、骨髄(骨挫傷、疲労骨折初期など)、筋肉の詳細な評価に極めて有用です。特に膝前十字靭帯損傷・断裂や膝半月板損傷・断裂、肩腱板断裂、関節唇損傷、離断性骨軟骨炎などの診断に不可欠な場合があります(提携病院にて実施)。

CT検査

複雑な骨折の形態、骨片の有無、骨癒合の評価などに有用です(提携病院にて実施)。

主なスポーツ外傷・障害とその治療戦略

スポーツ活動中に発生するケガや痛みは、その原因、部位、重症度において極めて多様です。当院では、これらのスポーツ外傷・障害に対し、専門的な知識と経験に基づいた正確な診断と、個々の選手の状況や目標に合わせた最適な治療を提供します。以下に、代表的な疾患をカテゴリー別に分類し、その詳細について解説します。

急性外傷 (Acute Injuries)

一度の比較的に大きな外力によって突発的に生じるケガです。

靭帯損傷 (Ligament Injuries)
足関節捻挫 (Ankle Sprain)

原因・疫学

スポーツ活動中(例:ジャンプ着地、方向転換)や日常生活(例:階段の踏み外し)において、足首が許容範囲を超えて強くひねられることによって発生します。最も頻度が高いのは、足裏が内側を向くようにひねる「内反捻挫」であり、この場合、足関節の外側にある靭帯群、特に前距腓靭帯(ぜんきょひじんたい)が損傷されることが一般的です。バスケットボール、バレーボール、サッカー、ランニングなど、あらゆるスポーツで極めて多く見られる外傷です。

分類

靭帯の損傷程度により、I度(靭帯線維の微細な損傷、伸びた状態)、II度(靭帯の部分断裂)、III度(靭帯の完全断裂)に分類され、重症度に応じて治療方針や治癒期間が異なります。

症状

受傷直後から、主に関節の外側に痛み、腫脹、熱感が出現します。皮下出血を伴うことも多く、これは数日かけて広がることがあります。II度以上の損傷では、体重をかけると強い痛みを感じたり(荷重時痛)、関節が不安定でグラグラする感じ(不安定感)を自覚したりすることがあります。

診断

まず詳細な問診(受傷機転)と身体所見(圧痛部位、腫脹の程度、腫脹、不安定性の有無)を確認します。靭帯の損傷を評価するために、徒手的にストレスを加えて関節の不安定性を調べるテスト(前方引き出しテスト、距骨傾斜テスト、内反ストレステストなど)を行います。骨折の合併を除外するためにレントゲン撮影は必須です。当院では、超音波(エコー)検査を積極的に活用し、靭帯の損傷の有無や程度、周囲の組織の状態をリアルタイムで詳細に評価します。必要に応じてMRI検査でより詳細な評価を行うことがあります。

治療

保存療法 RICE処置を基本とし、損傷度に応じた固定(テーピング、サポーター、ギプスなど)を行います。早期からの段階的なリハビリテーション(可動域、筋力、固有感覚訓練)が重要です。
手術療法 稀ですが、慢性的な不安定性や重度の損傷、骨片合併例などでは靭帯修復術や再建術を検討します。
術後リハビリテーション 術式に応じた固定とリハビリテーションを行い、競技復帰まで通常3~6ヶ月要します。

総括

頻度が高い外傷ですが、初期対応とリハビリテーションが不十分だと後遺症リスクがあります。正確な診断と適切な治療、リハビリテーションが重要です。

膝関節靭帯損傷 (Knee Ligament Injuries: ACL, PCL, MCL, LCL, PLC)

詳細は膝の専門外来 ページを参照ください。

原因・疫学

スポーツ中のジャンプ着地、急停止、方向転換、接触プレーなどで発生。前十字靭帯(ACL)損傷は非接触型が多く、女性アスリートに多い傾向。内側側副靭帯(MCL)損傷は外反ストレスで起こる。

症状

受傷時に「ブチッ」「ゴキッ」といった断裂音や、膝が抜けた・ずれた感覚を自覚することがあります。受傷直後は激しい痛みと腫れ(関節内血腫)で歩行困難となることが多いです。その後、痛みや腫れが軽減しても、歩行時や運動時の不安定感(膝崩れ)が残ることが特徴です。MCL損傷では内側の圧痛と不安定性が特徴です。

診断

受傷機転の聴取、診察(前方引き出しテスト、ラックマンテスト、ピボットシフトテスト、内外反ストレステストなどの不安定性テスト)、MRI検査で確定診断が可能です。関節穿刺で関節内血腫を確認することも診断に有用です。

治療

保存療法 MCL単独損傷(軽度~中等度)やPCL単独損傷(不安定性軽度)などで選択されます。装具固定とリハビリテーションが中心です。
手術療法 ACL損傷(特にスポーツ復帰希望者)や不安定性が強いPCL/LCL/PLC損傷、複合靭帯損傷では、関節鏡視下での靭帯再建術(自家腱移植)が標準的です。
術後リハビリテーション 長期的かつ専門的な段階的リハビリテーションが必須です。競技復帰には通常9ヶ月~1年以上かかります。

総括

アスリートの選手生命に関わる重傷です。正確な診断、適切な治療選択(手術か保存か)、質の高い長期リハビリが、競技復帰と将来の関節機能維持の鍵となります。

手指の靭帯損傷(突き指、スキーヤー母指など – Finger Ligament Injuries)

原因・疫学

球技(バレーボール、バスケットボールなど)でボールが指先に当たったり(突き指)、転倒時に手をついたり、あるいはスキーのストックを持ったまま転倒(母指MP関節内側側副靭帯損傷:スキーヤー母指)、柔道などで指が不自然な方向に曲げられたりすることで発生します。

症状

剥離骨折を伴ったりすると、関節が不安定になり、物が掴みにくくなったり、力が入らなくなったりします。スキーヤー母指では、母指の付け根(MP関節)の内側に痛みと腫れ、不安定性(横方向にグラグラする)が出現します。

診断

受傷時の状況を詳しく聞き、指の変形、腫れ、圧痛部位を確認します。関節の可動域や、徒手的にストレスを加えて不安定性の有無・程度を評価します。レントゲン検査で骨折(特に剥離骨折や関節内骨折)の有無を確認することは必須です。超音波検査は靭帯や腱の状態評価に有用です。

治療

保存療法 軽度~中等度の損傷や転位のない骨折では、固定(テーピング、シーネ、装具)と安静、その後の可動域訓練を行います。
手術療法 完全断裂、骨片転位、高度不安定性(特に母指MP関節UCL損傷のStener病変)の場合、靭帯修復術または骨接合術が必要です。
術後リハビリテーション 固定後、可動域、筋力、巧緻運動訓練を段階的に行います。

総括

「突き指」と軽視せず、骨折・腱損傷・重度靭帯損傷を除外するために専門医の診察が重要です。特に母指の機能は重要であり、適切な治療が必要です。

筋・腱損傷 (Muscle & Tendon Injuries)
肉離れ (Muscle Strain)

筋肉が自身の収縮力や、外部からの強い伸張力によって、筋線維や周囲の筋膜、腱組織が損傷・断裂する状態です。

ハムストリングス肉離れ (Hamstring Strain)

原因・疫学

太もも裏の筋肉群(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)の肉離れです。ダッシュ中の蹴り出し、ジャンプ、ハードル、キック動作など、股関節屈曲位での急激な膝伸展や、逆に膝伸展位での急激な股関節屈曲といった動作で発生しやすい。陸上競技(短距離、跳躍)、サッカー、ラグビーなどで好発します。不十分なウォーミングアップ、柔軟性不足、筋力不足(特に左右差やハムストリングスと大腿四頭筋の筋力比のアンバランス)、疲労の蓄積などがリスク因子となります。

分類

損傷部位(筋腹中央部、筋腱移行部、腱付着部:坐骨結節)や、超音波/MRI所見に基づく重症度分類(Grade 1: 微細損傷~Grade 3: 完全断裂)があります。
筋腱移行部や腱付着部の損傷は治癒に時間がかかる傾向があります。

症状

受傷時に「ブチッ」という断裂音や電気が走るような感覚、激しい痛みを自覚することがあります。損傷部位に圧痛、腫脹、熱感、皮下出血(数日後に出現・拡大することも)を認めます。体重をかけると痛んだり(荷重痛)、膝を曲げたり股関節を伸ばしたりする動作(膝屈曲・股関節伸展作用)で痛みが誘発されたり、力が入らなくなったりします。重症例では、筋肉の陥凹を触れることもあります。

診断

受傷機転と臨床症状から診断は比較的容易です。圧痛点の確認、腫脹・皮下出血・陥凹の有無、ストレッチ痛(膝伸展位での股関節屈曲)、筋力テスト(膝屈曲)での筋力低下の評価を行います。超音波(エコー)検査は、損傷部位、範囲、深さ、血腫の有無や大きさを簡便かつリアルタイムに評価でき、治療方針決定や予後予測、リハビリ中のフォローアップに非常に有用です。MRI検査は、より広範囲かつ深部の損傷、腱付着部の状態などを詳細に評価でき、重症例や復帰時期の判断に役立ちます。

治療

保存療法 RICE処置と段階的なリハビリテーションが基本です。安静から始め、ストレッチ、筋力強化(特に遠心性)、競技特有動作へと慎重に進めます。PRP療法(自費診療)は選択肢の一つです。
手術療法 稀ですが、坐骨結節からの完全剥離など重症例で検討されます。
術後リハビリテーション 固定後、長期の段階的リハビリテーションが必要です。

総括

再発率高いため、焦らず十分なリハビリテーションと原因因子の改善が重要です。

下腿三頭筋(ふくらはぎ)肉離れ (Calf Strain)

原因・疫学

テニス、バドミントン、剣道、陸上競技など、急な踏み込み、ジャンプ、方向転換動作時に発生しやすいです。特に中年以降のスポーツ愛好家が、ふくらはぎの内側(腓腹筋内側頭の筋腱移行部)を損傷するケースが多く、「テニスレッグ」とも呼ばれます。

症状

受傷時に、ふくらはぎを蹴られたような、あるいはボールが当たったような衝撃感や鋭い痛みを感じることがあります。圧痛、腫脹、皮下出血(遅れて出現することも)、歩行時の痛み、つま先立ち動作の困難や痛みが出現します。

診断

受傷機転と臨床症状が典型的です。圧痛の部位を確認します。腫脹、皮下出血の有無、足関節の背屈での疼痛誘発、つま先立ちでの筋力低下を評価します。超音波(エコー)検査による損傷部位(腓腹筋かヒラメ筋か)、範囲、血腫の評価が極めて有用です。

治療

RICE処置、ヒールパッド、弾性包帯/サポーターです。段階的リハビリテーション(足関節可動域、ストレッチ、筋力強化、バランストレーニング)を行います。PRP療法は選択肢の一つです。手術は極めて稀です。

総括

中高年に多い。アキレス腱断裂との鑑別は必須です。腓腹筋損傷は比較的治癒しやすいが、ヒラメ筋損傷は遷延化の可能性があります。

大腿四頭筋肉離れ (Quadriceps Strain)

原因・疫学

サッカーのキック動作、ダッシュ、ジャンプ着地などで太もも前面の筋肉(特に大腿直筋)が損傷します。

症状

受傷時の太もも前面の痛み、電撃痛。圧痛、腫脹、皮下出血。膝を伸ばす(伸展)動作や股関節を曲げる(屈曲)動作での痛み、筋力低下です。重症例では陥凹を触れることがあります。

診断

受傷機転、圧痛部位、腫脹、皮下出血、陥凹の有無、ストレッチ痛(膝屈曲、股関節伸展)、筋力テスト(膝伸展)で評価します。超音波(エコー)検査やMRI検査で損傷部位、範囲、血腫を確認します。

治療

RICE処置、段階的リハビリテーションです。大腿直筋損傷は治癒に時間がかかることあり。骨化性筋炎合併に注意が必要です。

総括

キック動作等を行う競技では、十分な筋力・柔軟性・協調性の回復が重要です。

アキレス腱断裂 (Achilles Tendon Rupture)

原因・疫学

スポーツ中の踏み込み、ジャンプ、ダッシュなどでアキレス腱に急激な伸張力が加わり断裂します。30~50代のレクリエーションアスリートに多いです。腱の変性が基礎にあることがあります。

症状

受傷時に「バチッ」「ブチッ」という断裂音や、誰かにふくらはぎを蹴られたような、あるいは棒で叩かれたような衝撃を感じることが典型的です。その後、強い痛みと歩行困難が出現します。つま先立ちは完全に不可能になります。受傷部位には陥凹を触れることがあります。

診断

受傷機転と臨床症状が特徴的です。視診でアキレス腱部の腫脹や皮下出血、触診で腱の連続性が途絶えている部分(陥凹)を確認します。Thompsonテストが陽性となるのが典型的で、診断的価値が非常に高いです。超音波(エコー)検査は、断裂の有無、断裂部位、断端間のギャップ(隙間)の程度を簡便かつ正確に評価でき、治療方針(保存か手術か)の決定や経過観察に有用です。MRI検査は通常不要です。

治療

保存療法 ギプスや機能的装具で固定し、自然治癒を待つ方法です。早期から荷重・可動域訓練を行う機能的装具療法が主流となっています。
手術療法 断裂した腱を縫合する方法です。活動性が高い人や早期復帰希望者に推奨されることが多いです。直視下、小切開、経皮的など多様な手術手技があります。
治療法選択 年齢、活動レベル、断裂状態、希望などを考慮し決定します。
術後リハビリテーション 保存・手術療法いずれも、早期からの段階的なリハビリテーションが不可欠で、競技復帰には6ヶ月~1年必要です。

総括

重大なスポーツ外傷です。治療法選択と質の高いリハビリテーションが機能回復と再断裂予防の鍵となります。

骨折・脱臼 (Fractures & Dislocations)
スポーツ関連の急性骨折

衝突や転倒により、鎖骨、橈骨遠位端、舟状骨、手指、肋骨、足関節、足趾などが折れることがあります。

症状

強い局所の痛み、腫れ、変形などが主な症状です。

診断

受傷状況の聴取、診察での変形、腫脹、圧痛の確認です。レントゲン検査が基本的な診断方法です。骨折線の確認が難しい場合や、関節内骨折、複雑骨折の詳細な評価にはCT検査が有用です。

治療

骨折部位、骨折型、転位の程度、年齢、活動性などを考慮して治療法を決定します。転位が少ない安定した骨折は、ギプスやシーネによる保存的固定を行います。転位が大きい場合、不安定な場合、関節内骨折、開放骨折などの場合は、プレート、スクリュー、髄内釘などを用いた手術療法(観血的整復固定術)が必要です。スポーツ選手の場合は、早期の機能回復と競技復帰を目指し、安定した固定が得られる手術的治療が積極的に選択されることもあります。

総括

適切な整復・固定と、骨癒合後の計画的なリハビリテーションが機能回復に不可欠です。特に舟状骨骨折は偽関節や壊死のリスクがあり注意が必要です。

スポーツ関連の脱臼

肩関節(前方)、肘関節(後方)、指関節、膝蓋骨などが、強い外力により関節が本来の位置から完全に外れてしまう状態です。

症状

激しい痛み、関節の明らかな変形、完全な運動不能が特徴です。神経や血管の損傷を伴うこともあります。

診断

関節の変形などの臨床所見と、レントゲン検査で脱臼の方向や骨折の合併を確認します。神経・血管損傷の評価が重要です。

治療

整復後の固定と、関節安定性を高めるためのリハビリが重要です。肩関節のように反復性に移行しやすい脱臼は、初回でも専門的な評価と治療方針の検討が必要です。

総括

適切な整復・固定と、骨癒合後の計画的なリハビリテーションが機能回復に不可欠です。特に舟状骨骨折は偽関節や壊死のリスクがあり注意が必要です。

オーバーユース障害(使いすぎによる障害) (Overuse Injuries)

一度の比較的に大きな外力によって突発的に生じるケガで繰り返しの負荷や不適切なフォームにより、徐々に組織が損傷・変性していく状態です。

成長期特有のスポーツ障害 (Growth-related Sports Disorders)

骨や関節軟骨が未成熟な成長期に、スポーツによる繰り返しの負荷が成長軟骨(骨端線、骨端核)にかかることで生じる特有の障害です。

オスグッド・シュラッター病 (Osgood-Schlatter Disease)

原因・疫学

成長期(特に10~15歳男子)に、活発なスポーツ活動(ジャンプ、ダッシュ、キックなど)によって大腿四頭筋が膝蓋腱を介して脛骨粗面を強く繰り返し牽引することで、同部の成長軟骨に炎症や部分的な剥離が生じる状態です。骨の成長速度に筋肉や腱の柔軟性が追いつかないこと、不適切なフォーム、練習のしすぎなどが誘因となります。サッカー、バスケットボール、バレーボール、陸上競技などの選手に非常に多く見られます。

症状

膝の下(脛骨粗面部)に、運動中や運動後に限局した痛み、腫れ、熱感が出現します。同部を押すと強い圧痛があり、骨性の隆起が目立つようになります。正座や膝をつく動作で特に痛みが強くなります。両側のことがあります。

診断

特徴的な年齢、スポーツ歴、症状と、診察所見(同部の圧痛)から臨床的に診断されることがほとんどです。レントゲン検査では、脛骨粗面の不整像、遊離骨片像、軟部組織の腫脹などが認められることがあります。

治療

保存療法 活動制限(時に休止)、アイシング、ストレッチ(大腿四頭筋、ハムストリングス)、筋力強化(体幹、股関節周囲)、オスグッドバンドです。
手術療法 極めて稀です。成長終了後の遺残骨片による疼痛が持続する場合は、関節鏡視下(または直視下)摘出術を検討します。

総括

成長期に多い予後良好な疾患です。適切な休養とケアで対応。痛みを我慢しないことが重要となります。

シーバー病(踵骨骨端症 – Sever’s Disease)

原因・疫学

成長期(主に8~12歳頃、男子にやや多い)に、踵骨の後下方にある成長軟骨が、アキレス腱と足底腱膜によって繰り返し強く引っ張られることで炎症を起こす状態です。活発な子供、特にランニングやジャンプ動作の多いスポーツ(サッカー、バスケットボール、陸上、体操など)を行っている場合に好発します。急な運動量の増加や、硬い地面での練習、クッション性の悪い靴などが誘因となります。

症状

運動中や運動後に出現する、アキレス腱付着部付近の痛みです。つま先立ちや歩行、ランニング、ジャンプなどの動作で痛みが増悪します。患部の圧痛があり、軽度の腫れや熱感を伴うことがあります。

診断

発症年齢、症状、診察所見から、臨床的に診断されることがほとんどです。レントゲン検査では、踵骨骨端核の分節化や硬化像などが認められることがありますが、これらは健常な子供にも見られる変化であり、診断的価値は低いです。

治療

保存療法が基本。活動制限、アイシング、アキレス腱・足底腱膜ストレッチ、ヒールカップやインソール使用です。

総括

成長期の一過性障害で、適切な負荷管理とストレッチで対応します。

有痛性外脛骨 (Accessory Navicular Syndrome)

原因・疫学

足の内側にある舟状骨の内側に、本来はない余分な骨(過剰骨)である外脛骨が存在する人がいます(人口の10-15%程度)。通常は無症状ですが、成長期(10~15歳頃)にスポーツ活動などで、外脛骨に付着する後脛骨筋腱によって繰り返し牽引されたり、捻挫などの外傷、靴による圧迫などがきっかけとなり、外脛骨と舟状骨の間(線維性または軟骨性結合部)に炎症や分裂が生じ、痛みが出現する状態です。扁平足や外反足を伴うことがあります。

症状

足の内側(土踏まずの少し上、内くるぶしの前方)にある骨の隆起部(外脛骨)の痛み、腫れ、熱感、圧痛です。運動中や運動後、あるいは硬い靴を履いた時などに痛みが増悪します。

診断

症状と、診察での外脛骨部の圧痛と隆起の確認が重要です。レントゲン検査で外脛骨の存在と、舟状骨との間の状態(離開や不整など)を確認します。痛みの原因が外脛骨にあることを確認するために、MRI検査(炎症像の確認)や、局所麻酔薬の注射(疼痛消失効果の確認)を行うことがあります。

治療

保存療法 活動制限、アイシング、インソール(アーチサポートが特に有効)、ストレッチです。
手術療法 保存療法で改善しない場合、外脛骨摘出術や骨接合術を検討します。

総括

インソールなどの保存療法が効果的です。難治例には手術が有効です。

リトルリーグ肩(上腕骨近位骨端線離開 – Little League Shoulder)

原因・疫学

成長期(10~15歳)の野球投手などに、繰り返される投球動作によって、上腕骨近位の成長軟骨部分(骨端線)にストレスがかかり、微細な損傷や離開が生じる状態です。過剰な投球数、不適切な投球フォーム、肩や体幹の柔軟性不足・筋力不足などが誘因となります。

症状

投球時(特に加速期からフォロースルー期にかけて)の肩の痛みです。最初は投球後に痛みを感じる程度ですが、進行すると投球中にも痛み、さらに安静時にも痛むようになります。球速やコントロールの低下、肩の可動域制限(特に内旋制限)を伴うこともあります。

診断

年齢、野球(特に投手)歴、症状の聴取が重要です。診察では、肩の圧痛(上腕骨近位骨幹端部)、可動域(特に内旋・外旋)の左右差、筋力などを評価します。診断の確定にはレントゲン検査が必須であり、患側の上腕骨近位骨端線の拡大、辺縁不整、骨硬化像などが認められます。健側と比較することが重要です。超音波検査やMRI検査も、骨端線の状態や周囲の炎症を評価するのに有用です。

治療

完全投球禁止(数ヶ月間)後、段階的なリハビリテーション(コンディショニング、フォーム修正、段階的な投球プログラム)です。通常、一般的に手術は不要です。

総括

成長期の骨端線損傷です。完全投球禁止と適切な管理が必須で、再発予防に投球数制限やフォーム指導が重要です。

野球肘 (Baseball Elbow)

投球動作の繰り返しにより肘関節およびその周囲に生じるスポーツ障害の総称です。発生部位により内側型、外側型、後方型に大別されます。

内側型(Medial Type)

病態

内側上顆骨端症(成長期)、内側側副靭帯(UCL)損傷(高校生以上)、回内屈筋群の付着部炎など。

原因・疫学

投球の加速期に肘にかかる強い外反ストレスにより、内側の組織(内側側副靭帯: UCL、回内屈筋群、内側上顆骨端線)が損傷します。成長期では内側上顆の骨端線離開、成人では内側側副靱帯損傷が多いです。

症状

投球時の肘内側の鋭い痛み、圧痛、時に不安定感、しびれ(尺骨神経症状合併の可能性)です。

診断

投球歴、症状の聴取。肘内側の圧痛、外反ストレステストでの不安定性や痛みの誘発で診断します。超音波検査で内側側副靱帯損傷(肥厚、断裂、石灰化)、骨端線の離開、血流増加を詳細に評価し、レントゲンで骨端線の離開・分節化、遊離骨片を確認します。MRI検査で内側側副靱帯損傷の詳細な評価は有用です。

治療

保存療法 投球禁止(数週~数ヶ月)、安静、物理療法と共に、理学療法(肩・体幹含む全身のコンディショニング、フォーム修正)が重要です。骨端症は多くが保存で治癒します。PRP療法が選択肢の一つとなります。
手術療法 保存抵抗性の内側側副靱帯完全断裂(特に尺側)には靭帯再建術(トミー・ジョン手術:自家腱移植)となります。剥離骨片が大きい場合は骨片固定・摘出を行います。
術後リハビリ 長期(約1年)の段階的リハビリテーションが必要となります。

総括

早期発見と投球制限・フォーム修正が重要です。内側側副靱帯損傷は選手生命に関わることがあり、慎重に経過を見る必要があります。

外側型(Lateral Type – 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎 OCD of the Capitellum)

原因・疫学

投球の加速期~減速期に肘外側にかかる圧迫力や剪断力により、上腕骨小頭(肘外側の骨の一部)の軟骨と骨の一部が壊死・分離します。10代前半~中盤の野球選手に好発します。

症状

投球時や肘の曲げ伸ばしでの肘外側の痛み、可動域制限(特に伸展制限)、ひっかかり感、ロッキング(遊離体がある場合)が特徴的です。初期は無症状のことがあります。

診断

症状、肘外側の圧痛、可動域制限の確認、レントゲンで上腕骨小頭の透亮像、不整像、分離像、遊離体を確認します。また、超音波検査やMRI検査が特に有用で、軟骨の状態、病巣の安定性を評価します。CT検査では骨の状態を詳細に評価します。

分類

病期(透亮期、分離期、遊離期)と安定性、病巣の大きさ、部位で治療方針を決定します。

治療

保存療法 早期・安定病巣で骨端線閉鎖前であれば保存療法で治癒を目指します。完全投球禁止、スポーツ制限(数ヶ月~1年)が必要です。
手術療法 保存療法が無効の場合、病巣部の不安定性がある場合、遊離している場合は、関節鏡視下または直視下にドリリング(穿孔術)、骨釘・吸収性ピン固定、自家骨軟骨柱移植(OATS)、遊離体摘出を行います。
術後リハビリ 術式に応じ長期リハビリテーションが必要です。競技復帰までの目安は6ヶ月~1年半です。

総括

早期発見・治療が鍵となります。超音波検査が有用です。

後方型(Posterior Type)

病態

肘頭骨端線離開、肘頭疲労骨折、後方インピンジメント(骨棘、滑膜炎)、肘関節内遊離体(ねずみ)などがあります。他の型に比べ頻度は低いが、パフォーマンスに影響します。

肘頭骨端線離開 (Olecranon Apophysitis/Stress Reaction)

原因・疫学

成長期(10代中盤)の投手や体操選手に多い。繰り返す肘伸展時の上腕三頭筋による牽引ストレスや、フォロースルー期での肘頭と肘窩の衝突(インピンジメント)により肘頭の骨端線(成長軟骨)に炎症や離開が生じます。

症状

肘後方の痛み(特に肘伸展時や投球のフォロースルー期)、圧痛、腫れ。

診断

症状、スポーツ歴、圧痛、肘関節伸展時の疼痛誘発、レントゲンで骨端線の拡大や不整像、硬化像を確認する。MRI検査では骨髄浮腫や骨端線の離開をより詳細に評価可能です。CT検査では骨片の有無や分離の程度を確認します。

治療

保存療法 投球禁止および肘に負荷のかかる活動の完全休止が最も重要です(通常4~8週間)。アイシング、消炎鎮痛薬。痛みが軽減したら、理学療法士の指導のもと、肩甲帯、体幹、下肢の柔軟性・筋力強化、肘に負担の少ない投球フォームの獲得を目指すリハビリテーションを開始します。その後、段階的な投球プログラムを開始します。
手術療法 保存療法に抵抗し、症状が長期間持続する場合や、骨端線の偽関節化(骨癒合しない)、大きな遊離骨片を伴う場合は、骨釘による内固定術や骨片摘出術を検討します。

総括

成長期の肘後方痛の原因として重要です。診断後は速やかな投球中止と適切な安静期間の確保が骨癒合と症状改善の鍵となります。再発予防にはフォーム修正と全身のコンディショニングが不可欠です。

肘頭疲労骨折 (Olecranon Stress Fracture)

原因・疫学

成人アスリート、特にオーバーヘッドスポーツ選手(野球投手、やり投げ、バレーボールなど)に多い。繰り返される投球やサーブ動作における肘伸展時の強力な上腕三頭筋の牽引力と、肘頭と肘窩の衝突(インピンジメント)が複合的に作用し、肘頭に疲労骨折が生じる。 肘内側側副靱帯損傷を合併していることがあります。また、高いパフォーマンスの方に生じる傾向があります。

症状

肘後方の痛みで、特に投球動作の加速期からフォロースルー期にかけて増悪します。肘頭部の限局した圧痛、時に軽度の腫脹があり、症状が進行すると、日常生活での肘伸展動作でも痛みを感じるようになります。

診断

症状、スポーツ歴、肘関節伸展時の疼痛誘発、レントゲン検査では初期には異常を認めないことが多く、進行すると骨折線や骨硬化像が見られます。CT検査が骨折線の同定、骨折型(横骨折、斜骨折など)、転位の有無、骨癒合の評価に有用です。MRI検査は早期の骨髄浮腫や周囲の軟部組織の状態評価に役立ちます。

治療

保存療法 骨折線が明瞭でないストレス反応の段階や、転位のない安定した疲労骨折で、症状が軽度な場合に選択します。数週間~数ヶ月の完全な投球禁止と患部の安静が必須です。痛みが軽減し、画像検査で修復傾向が確認されたら、段階的なリハビリテーション(可動域訓練、筋力強化、フォーム修正)を開始します。
手術療法 保存療法に抵抗性で症状が持続する場合、骨折線が明瞭で転位がある場合、偽関節(骨癒合が得られない状態)に至った場合、早期の確実な競技復帰を目指す場合に手術を検討します。一般的な術式はスクリュー固定術です。場合によって、自家骨移植を併用することがあります。
術後リハビリテーション 術後は一定期間の固定(シーネや装具)を行い、骨癒合の状況に応じて徐々に可動域訓練、筋力強化を開始します。通常、術後3~4ヶ月頃から段階的な投球プログラムを開始し、競技復帰には6ヶ月以上を要することが多いです。

総括

投球選手における肘後方痛の重要な原因の一つです。診断にはCT検査が有用です。治療は安静が基本だが、難治例や早期復帰希望例では手術が有効な選択肢です。再発予防には投球メカニクスの改善と適切な負荷管理が不可欠です。

疲労骨折 (Stress Fractures)

一度では骨折を起こさない程度の比較的弱い力の繰り返しによって骨の微小損傷が生じます。
通常、骨には損傷を修復する能力がありますが、負荷がかかり続けることで修復が追いつかなくなり、微細な損傷が蓄積して、最終的に目に見える「骨折」に至る、という病態です。

腰椎疲労骨折(腰椎分離症 – Lumbar Spondylolysis)

原因・疫学

成長期のスポーツ選手(野球、サッカー、バレー、体操等)で腰の反復的な伸展・回旋ストレスにより椎弓峡部に発生し、第5腰椎に好発します。発症率は6%(男8%女4%)です。

分類

治療方針を決定する上で、病期(骨折の状態)による分類が重要です。主にMRI検査やCT検査所見に基づいて評価します。

早期(初期)分離・ストレス反応期

MRI検査で椎弓峡部に骨髄浮腫を認めるが、CT検査では明らかな骨折線がないか、ごく軽微な状態です。骨癒合の可能性が最も高い時期です。

進行期分離

CT検査で明らかな骨折線を認めるが、まだ骨癒合の可能性がある時期です。MRI検査での骨髄浮腫の程度を参考にします。

終末期分離(偽関節期・陳旧性)

CT検査で分離部が骨硬化像を伴い、骨折線が完全に離開し、骨癒合が期待できない状態です。MRI検査での骨髄浮腫は通常認めません。また、分離の程度(片側か両側か)、分離した椎体が前方にずれる「すべり症」の有無とその程度(Meyerding分類 Grade I-IV)は治療方針に影響します。

症状

運動時の腰痛(特に伸展・回旋時)です。進行するとすべり症による神経症状が生じることがあります。

診断

症状、腰椎伸展・回旋テスト、レントゲン斜位像、CT検査、MRI検査で診断します。

治療

保存療法 早期は、骨癒合目指し硬性コルセット固定+スポーツ休止(3-6ヶ月)と共に体幹強化などのリハビリテーションです。終末期は、症状への対症療法と体幹強化などのリハビリテーションです。
手術療法 早期復帰希望、再発、保存療法へ抵抗性の偽関節痛、神経症状やすべり進行例に分離部修復術や固定術を検討します。

総括

成長期の方で、2-4週間持続する腰痛の場合はMRI検査で精査することをおすすめします。早期診断と適切な初期治療(固定)が骨癒合の鍵となります。

脛骨疲労骨折 (Tibial Stress Fracture)

原因・疫学

ランニング系スポーツは脛骨内側後方(疾走型、低リスク)、ジャンプ系スポーツは前方中央(跳躍型、高リスク)に好発します。

分類

MRI検査で重症度(Grade 1-4)の判定をします。

症状

運動中・後の脛骨の限局した痛み、圧痛、腫脹で、進行すると安静時痛が生じます。

診断

症状、圧痛、叩打痛、片足ホップテスト、レントゲン(進行すると骨膜反応や骨折線)で診断します。MRI検査が早期診断に有用(骨髄浮腫、骨折線)です。

治療

保存療法 原因活動中止、安静、免荷(松葉杖)、物理療法(LIPUS, ESWT)です。原因の特定と段階的リハビリテーションが重要です。
手術療法 高リスクな前方型、保存抵抗性偽関節に骨折観血的整復固定術(髄内釘)を検討します。

総括

部位リスク評価とそれに応じた治療戦略が重要です。前方型は難治性です。

中足骨疲労骨折 (Metatarsal Stress Fracture)

原因・疫学

ランニング、ジャンプ、バレエなどで生じます。頻度は第2、第3、第4中足骨の順となります。第2中足骨疲労骨折は行軍骨折とも言われています。

症状

足の甲の限局した痛み、腫れ、運動時痛です。

診断

症状、圧痛、レントゲン、超音波検査、MRI検査で診断します。MRI検査は早期診断に有用です。

Jones骨折(ジョーンズ骨折 第5中足骨基部・骨幹端部骨折)

原因・疫学

第5中足骨の骨幹部と骨幹端部の境界(Zone 2)に発生する骨折です。この部位は血行が悪く、治癒しにくい特徴があります。急な内反捻転による急性骨折の場合と、同部位への繰り返しのストレスが関与した疲労骨折の場合、両者が混在する場合があります。サッカー、バスケットボール、ダンスなどのスポーツ選手に好発し、Zone 1(基部裂離骨折、偽Jones骨折とも呼ばれ予後良好)やZone 3(骨幹部疲労骨折)との正確な鑑別が治療方針決定に極めて重要です。

症状

足の外側の痛み、腫れ、荷重痛、歩行困難です。受傷機転が明らかな場合と、徐々に痛みが強くなる場合があります。

診断

症状、圧痛、レントゲン、超音波検査、MRI検査で診断します。MRI検査は早期診断に有用です。

治療

偽関節(骨が癒合しない状態)や再骨折のリスクが非常に高く、特に活動性の高いアスリートでは早期の確実な骨癒合を目指し、手術療法(髄内スクリュー固定術)が第一選択となることが多いです。これにより、より早期の荷重開始と競技復帰が可能となります。保存療法(長期の免荷ギプス固定)は選択肢の一つですが、治癒期間が長く(数ヶ月)、再骨折や偽関節のリスクがあるため、アスリートには推奨されにくいのが現状です。

術後リハビリテーション

スクリュー固定後は、骨癒合の状況によっては比較的早期(数週~)から部分荷重を開始し、徐々に全荷重へと移行します。筋力強化、バランストレーニングなどを行い、通常、術後3~4ヶ月程度での競技復帰を目指します。

総括

Jones骨折は通常の中足骨疲労骨折(第2~4中足骨に多い)とは異なり、その解剖学的特性から難治性であると認識し、治療方針を決定する必要があります。アスリートでは手術的治療が標準となりつつあります。

肋骨疲労骨折 (Rib Stress Fracture)

原因・疫学

野球(投球・打撃)、ゴルフ、ボート漕ぎなど体幹回旋・筋肉牽引ストレスで生じ、好発部位は第1肋骨や中下位肋骨です。

症状

深呼吸、咳、体幹回旋時の局所的な胸背部痛、圧痛です。

診断

症状、圧痛、胸部正面レントゲンで診断します。CT検査、超音波検査が有用です。

治療

保存療法(原因動作中止、安静2-6週間)で骨癒合を目指します。再発予防が重要で、同部位への繰り返しのストレスが関与した動作を修正する必要があります。一般的に手術療法は不要です。

総括

安静で治癒。原因動作分析と修正が再発予防に重要。

その他の疲労骨折

腓骨(長距離走)、大腿骨(頚部・骨幹部)、足舟状骨、踵骨、骨盤などがあります。大腿骨頚部と足舟状骨は特に高リスクで、MRI検査による早期診断)と専門的管理(時に手術)が必要です。

腱・腱付着部障害 (Tendinopathies & Enthesopathies)
アキレス腱炎・アキレス腱付着部炎 (Achilles Tendinopathy/Insertional)

原因・疫学

ランニング、ジャンプ系のオーバーユースが主な原因となり、不適切な靴着用、柔軟性不足が関与します。

症状

アキレス腱実質部または踵骨付着部の運動時痛、圧痛、腫脹、朝のこわばりです。

診断

症状、圧痛、腫脹。超音波検査で腱肥厚、変性、血流増加、骨棘を評価します。

治療

保存療法(安静、ストレッチ、遠心性収縮訓練、インソール装着、物理療法)で治療し、難治例には体外衝撃波療法(ESWT)、PRP療法、動注治療(自費診療)を検討します。

総括

慢性化しやすく治療に時間を要します。多方面からのアプローチ(治療)が鍵です。

膝蓋腱炎(ジャンパー膝 – Patellar Tendinopathy)

原因・疫学

ジャンプ、ダッシュの繰り返しで膝蓋腱付着部に負荷がかかり、生じます。バレーボール、バスケットボール選手に多いです。

症状

膝蓋骨下端の運動時痛、圧痛、腫れ。

診断

症状、圧痛部位などで診断します。超音波検査で腱肥厚、変性、血流増加を評価します。

治療

保存療法(安静、ストレッチ、筋力強化、物理療法、膝蓋腱バンド)で治療し、難治例には体外衝撃波療法(ESWT)、PRP療法(自費診療)、動注治療(自費診療)を検討します。

総括

慢性化しやすく治療に時間を要します。多方面からのアプローチ(治療)が鍵です。

足底腱膜炎 (Plantar Fasciitis)

原因・疫学

ランニング、長時間の立ち仕事、扁平足等が誘因となり、足底腱膜と踵骨付着部の炎症・変性です。

症状

運動開始時の痛み、踵内側前方の圧痛。

診断

症状、圧痛部位などで診断します。レントゲンで骨棘の形成を評価します。超音波検査で腱肥厚、変性、血流増加を評価します。

治療

保存療法(安静、ストレッチ、インソール装着、物理療法)などで治療します。体外衝撃波療法(ESWT)が著効することが多いです。PRP、動注治療は選択肢の一つです(自費診療)。

総括

ストレッチとインソール装着が基本です。体外衝撃波療法(ESWT)が有効です。

腸脛靭帯炎(ランナー膝 – Iliotibial Band Syndrome)

原因・疫学

長距離走などで腸脛靭帯が大腿骨外側上顆と擦れて炎症を生じた状態です。O脚、股関節外転筋力不足、フォーム不良が誘因となります。

症状

ランニング中の膝外側の痛み、圧痛(大腿骨外側上顆)です。

診断

症状、圧痛部位から診断します。

治療

保存療法(ランニング休止、ストレッチ(腸脛靭帯、殿筋)、筋力強化(股関節外転筋)、フォーム修正、物理療法)。注射などで治療します。

総括

ランナーに多く、治療の中心はストレッチ、筋力強化、フォーム改善となります。

上腕骨外側上顆炎(テニス肘 – Lateral Epicondylitis)

原因・疫学

手首伸筋群の肘外側付着部の炎症・変性です。テニス(バックハンド)、PC作業、手作業が誘因となります。好発は30-50代です。

症状

物を持つ、タオル絞る動作での肘外側痛、圧痛です。

診断

症状、圧痛。誘発テスト(Thomsen, Chair test)で診断します。超音波検査で付着部の炎症や変性を評価します。過度な血流増加を認める場合は自己免疫性疾患を疑います。

治療

保存療法(安静、ストレッチ、筋力強化、テニス肘バンド)で治療し、難治例には体外衝撃波療法(ESWT)、PRP、動注治療を検討します(自費診療)。

総括

日常生活動作で発症し、治療はストレッチと負荷管理が基本となります。難治例には体外衝撃波療法(ESWT)などを検討します。

上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘 – Medial Epicondylitis)

原因・疫学

手首屈筋・回内筋群の肘内側付着部の炎症・変性です。好発は、ゴルフ、野球、肉体労働などです。

症状

手首を曲げる、物を握る動作での肘内側痛、圧痛です。

診断

症状、圧痛。誘発テスト。超音波検査で付着部の炎症や変性を評価します。過度な血流増加を認める場合は自己免疫性疾患を疑います。

治療

テニス肘に準じる(ストレッチ対象は屈筋群)。

総括

テニス肘より頻度は低い。尺骨神経障害を合併することがあります。

肩腱板炎・インピンジメント症候群 (Rotator Cuff Tendinopathy / Impingement)

スポーツとの関連

オーバーヘッドスポーツ選手に多い。繰り返す動作による腱板の微細損傷や衝突が原因です。リハビリテーション(腱板機能強化、肩甲骨安定化、フォーム修正)が重要です。

関節・軟骨障害 (Joint & Cartilage Disorders - overuse context)
関節唇損傷(肩SLAP損傷、股関節唇損傷など – Labral Tear)

スポーツとの関連

肩(投球、バレー)、股関節(サッカー、体操)などで、繰り返し動作や捻りにより関節唇が損傷します。痛み、ひっかかり感、不安定感が主な症状です。診断はMRI検査(時に造影)。治療は保存(リハビリテーション)または関節鏡視下手術(修復、切除)です。

スポーツによる早期変形性関節症 (Early Osteoarthritis due to Sports)

原因・疫学

若年期からの高負荷、過去の関節外傷後遺症で早期に関節症を発症します。好発は、膝、足関節、股関節、肘関節などです。

治療

通常の変形性関節症に準じるが、若年者では関節温存手術(骨切り術、軟骨修復術など)が重要です。

神経・その他障害 (Neurological & Other Disorders)
胸郭出口症候群 (TOS – Thoracic Outlet Syndrome)

原因・疫学

首から腕への神経・血管が鎖骨周辺(斜角筋間、肋鎖間隙、小胸筋下)で圧迫される病態です。なで肩、不良姿勢、腕挙上スポーツ(野球、水泳、バレーボール)が誘因となります。神経性、血管性の両者が混在していることがあります。

症状

腕や手のしびれ、痛み、だるさ、脱力感、冷感、蒼白感などです。症状は腕を上げた時や、重い物を持った時に増悪することが多く、神経や血管が圧迫される部位により症状が異なります。

診断

詳細な問診、姿勢評価、鎖骨上窩の圧痛、症状を誘発するテスト(アドソンテスト、ライトテスト、エデンテストなど)で診断します。レントゲン検査で頚肋の有無の確認、超音波検査で血流や神経の評価を行います。手術を検討する場合は、造影CT検査で神経や血管の圧迫の部位、程度などの詳細な評価を行います。

治療

保存療法 リハビリテーションによる姿勢矯正、肩甲帯筋強化、斜角筋・小胸筋ストレッチ、神経滑走訓練などを行います。
手術療法 保存療法が無効の場合に検討します。手術は第1肋骨切除、斜角筋切離などを行います。

総括

投球障害肩に合併します。多彩な症状を呈するため、診断が難しいことがあります。リハビリテーションが鍵となります。

尺骨神経障害(肘部管症候群含む – Ulnar Neuropathy / Cubital Tunnel)

原因・疫学

尺骨神経が肘(肘部管)や手首(Guyon管)で圧迫・牽引され、生じます。肘部管症候群は変形性肘関節症、ガングリオン、スポーツ(投球)などが原因となります。

症状

小指と薬指の小指側半分のしびれ、感覚鈍麻、痛みです。進行すると手の筋肉(骨間筋、小指球筋)が痩せ、指の細かい動きがしにくくなり(巧緻運動障害)、鷲手変形、握力低下などが生じます。

診断

症状、神経支配領域の感覚・筋力テスト、神経の圧痛や肥厚、Tinelサイン(神経を叩くとしびれが放散)で診断します。症状が強い場合は、神経伝導速度検査で神経の伝導速度低下を確認します。

治療

保存療法 初期・軽症例で適応となります。超音波ガイド下にハイドロリリースを行い、神経の滑走を改善します。
手術療法 保存療法の無効例、麻痺・筋萎縮例で適応となります。手術は、神経剥離術、神経前方移行術を行います。

総括

投球動作などスポーツとの関連も考慮。早期診断・治療が神経機能温存に重要。

慢性運動誘発性コンパートメント症候群 (CECS – Chronic Exertional Compartment Syndrome)

原因・疫学

運動中に下腿などの筋膜区画内圧が異常上昇し、血流障害・神経症状が出現します。好発は、長距離ランナー、サッカー選手などです。

症状

運動開始後一定時間で出現する、特定のコンパートメント(下腿前区画や深後区画が多い)の進行性の痛み、張り、しびれ、筋力低下です。運動を中止すると数分~数十分で症状は軽快します。

診断

診察室では無症状のことがほとんどです(安静時のため)。運動負荷試験を行い、症状を誘発します。

治療

保存療法 活動量の調整、フォーム修正、ストレッチ、筋膜リリースなどが中心となります。
手術療法 保存療法へ抵抗し、活動に支障ある場合に筋膜切開術を行います。
術後リハビリテーション 早期可動域訓練、段階的運動再開が中心となります。

総括

運動時のみの症状出現で診断します。手術が効果的です。

その他の末梢神経障害

手根管症候群(手首での正中神経障害)、足根管症候群(足首内側での脛骨神経障害)、梨状筋症候群(殿部での坐骨神経障害)、モートン病(足趾間の神経腫)なども、スポーツ活動に関連して症状が出現・増悪することがあります。それぞれの病態に応じた診断と治療が必要です。

スポーツの専門外来

上記はスポーツ整形外科で扱う代表的な疾患です。これら以外にも多種多様なスポーツ外傷・障害があり、当院ではどのような症状であっても、まず正確な診断を行うことを最優先し、個々の状況に合わせた最適な治療法をご提案いたします。

Web予約

お問い合わせ

お電話072-924-0700

Instagram